世界遺産/アジアの世界遺産

フエの建造物群/ベトナム(3ページ目)

中国式の宮殿や庭園、フランス式の城塞や家屋に、ベトナム独自の装飾を加えた華やかな建物が残るベトナム中部の街フエ。ベトナム最後の王朝・グエン朝はこの街に都城を築き、王宮を建てて、華麗な文化を開花させた。一方で、フランスや中国、日本、アメリカの標的となり、ベトナム戦争では多くの建物が破壊されてしまった。今回はベトナムの世界遺産「フエの建造物群」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

世界遺産「フエの建造物群」の見所 1. 王宮

顕臨閣

皇帝の菩提寺として機能した顕臨閣。ベトナム式の独特の外観を持つ建物で、都でもっとも高い建造物だった。建物の正面には高さ2mに迫る9つの鼎が並んでいる

太和殿

太和殿。華やかな空間が広がっているが、残念ながら内部撮影禁止

世界遺産「フエの建造物群」は14の構成資産からなっている。ここではフエのランドマークでもある王宮の主な見所を紹介しよう。

■午門
王宮の南門であり正門。ベトナム戦争で破壊されたが、太和殿などとともに戦後修復された。現在はここが王宮のエントランスとなっている。身分に応じた5つの門があり、中央の門は皇帝のみが通ることを許された。

■太和殿
王宮の正殿のひとつ。皇帝が謁見する場所であり、即位式などの重要な儀式はここで執り行われた。内部には玉座があり、周囲の柱や梁・天井は皇帝を示す黄金と赤で彩られた彫刻で覆われており、豪奢で輝かしい空間が広がっている。

 

■世祖廟、顕臨閣
世祖廟

皇帝の位牌を収める王宮の世祖廟。廃位されたズクドゥク帝とヒエップホア帝、フランスに亡命したバオダイ帝の位牌はない

世祖廟には代々の皇帝の祭壇があり、位牌が収められている。一方、顕臨閣はミンマン帝が築いた建物で、王位の象徴である青銅の鼎(かなえ)が9皇帝分設置されている。

■閲是堂
宮廷劇場。現在でもしばしばコンサートが行われており、ユネスコの無形文化遺産に登録されている「ベトナム宮廷音楽ニャ ・ニャック」も定期的に演奏されている。ニャ ・ニャックはグエン朝滅亡と同時に禁止され、一時は消滅したが、近年再興された。

■延寿宮、長生殿
いずれもザロン帝が母親の住居・私室として建築したもので、主に女性に利用された。皇帝の部屋に多くの龍が彫刻されているのとは対照的に、多数の鳳凰で彩られている。

 

世界遺産「フエの建造物群」の見所 2. 陵墓、寺院

カイディン帝廟

他の皇帝廟と異なり、庭園がなく、石造りを中心としたカイディン帝廟。完成に12年を要したと伝えられており、その贅沢ぶりが当時大きな非難を浴びた

カイディン帝廟のエントランス

カイディン帝廟のエントランス

王宮の周囲にはグエン朝皇帝の廟(偉人の霊魂を祀る宗教施設)や皇帝が建設した寺院が残されている。ここでは主な皇帝廟と寺院を紹介しよう。

■ザロン帝廟(嘉隆帝陵)
初代皇帝ザロンの廟。山全体が敷地といった広大な廟で、自然をそのまま利用して庭園としている。廟内に墓があるのは他の廟と同様だ。

■ミンマン帝廟(明命帝陵)
第2代皇帝廟。フランスの先端技術を導入した代わりに介入を許したザロン帝とは反対に、ミンマン帝はフランスとの通称を断絶し、ベトナム独自の路線を切り拓いた。その思想を引き継いでおり、中国風の落ち着いた廟になっている。

 

■トゥドゥク帝廟(嗣徳帝陵)
ティエンムー寺の境内

ティエンムー寺の境内

第4代皇帝廟。ミンマン帝時代より続いた反フランス政策に対してフランスはベトナムを攻撃。トゥドゥク帝はなすすべなく敗れ、以来グエン朝はフランスの保護国となる。トゥドゥク帝は一連の敗戦を悔い、この中国風の庭園別荘で日々嘆き悲しんでいたという。

■カイディン帝廟(啓定帝陵)
第12代皇帝廟。トゥドゥク帝以来巨大な皇帝廟は造られなくなっていたが、この廟は例外だ。バロックやゴシック、コロニアルをはじめとする西洋建築のデザインに金属やコンクリートといった先端素材を組み合わせた近代的な廟になっている。

■ティエンムー寺(天姥寺)
17世紀に開山した仏教寺院。ランドマークとなっている八角形七層のトゥニャン塔(慈仁塔)は第3代皇帝ティエウチ帝が1845年に建てたもので、仏教で悟りを意味するハスを象っている。本尊は釈迦如来像だ。

 

他にティエウチ帝廟、ズクドゥク帝廟、ドンカイン帝廟、ナムジアオ・エスプラネード、ヴァンタインとボータイン、ホンチェン寺、虎園と龍珠廟、ハイタイン砦が世界遺産「フエの建造物群」の構成資産となっている。
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