メンタルヘルス/心の病気の原因・症状・セルフチェック

免疫系の不調は心の病気の発症要因の一つ

今回は、免疫系の問題が心の病気の発症につながる可能性もある事を詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

免疫系の働きに問題が起きると、場合によっては心の病気の発症につながる事も

免疫系は体内に侵入した風邪ウイルスなど微生物への防御システム。日常生活で強いストレスにさらされている時は免疫系の機能が低下して、風邪を引きやすいなど、心身に不調が現れやすい事はご用心!

体の調子が悪いと、気持ちも冴えなくなるもの。風邪で熱があり、咳・鼻水が止まらない時に、大事なテストや仕事が重なってしまうのは精神的にも辛いものです。しかし状況によっては、ひどい体の不調を押し切ってでも、学校や職場へ向かう必要があるかも知れません。

風邪などで体が辛いとき、体内では血液中のリンパ球などが侵入したウイルスと戦っています。体内の免疫系は、微生物の脅威から私たちを守る防御システムです。しかし、免疫系に問題が生じると、それが精神症状の出現につながってしまう可能性があります。今回は、心の病気の生物学的要因の一つとして、免疫系の問題を詳しく解説します。

心にも不調を及ぼす可能性がある免疫系の不調

人体には、時にウイルスや細菌などの微生物が侵入します。鼻や口腔内の粘膜などから体内に侵入した微生物は、体内で自己増殖を試みます。そして私たちの生理機能に時に深刻なダメージを与える可能性もあります。こうした微生物の脅威からしっかり私たちを守ってくれるのが免疫系です。

免疫系には、Tリンパ球、Bリンパ球、ナチュラル・キラー細胞など多様な細胞が関与しており、これらの細胞は互いに連携し合い、体に侵入した微生物を撃退します。免疫系は、まず体に侵入した微生物を抗原、つまり外敵として認識します。そして免疫系は抗原を攻撃する武器として抗体を作り出し、免疫反応を通じて、抗原を次第に無力化していきます。

しかしこの大切な防御システムである免疫系が、時に何らかの要因で私たち自身の生理機能にダメージを与えてしまう可能性があります。例えば、自分自身の細胞であるにも関わらず、それを外敵と認識してしまう自己免疫疾患。免疫系は外敵と認識してしまった部位に対して抗体を作るため、免疫反応を通じて自分自身に深刻なダメージを与えてしまう可能性もあります。

これらの自己免疫疾患は実に多様ですが、慢性関節リウマチを始め、「体」に影響するものと考えられがちです。しかし、なかには中枢神経系の構成物に抗体を作ってしまうものもあります。もしも自己免疫反応を通じて、中枢神経系の機能に何らかの支障が生じれば、抑うつ感や睡眠障害など精神症状が出現する可能性もあります。

また、中枢神経系内での炎症反応を通じて、中枢神経系の機能に何らかの支障が生じる可能性もあります。例えば、髄膜炎菌に感染して髄膜炎になれば、場合によっては自分が今どこにいるのか分からなくなるといった、せん妄が起こる可能性があります。

免疫系と統合失調症とアルツハイマー型認知症

一例を挙げましょう。統合失調症は代表的な心の病気の一つ。幻覚や妄想などが特徴的な症状で、脳内神経伝達物質の一つであるドーパミンの働きに何らかの支障が出ることが、これらの症状の直接的な原因だと考えられています。

統合失調症は、実は11月から3月にかけての寒い時期の出生に多いといわれています。寒さの厳しい時期は風邪の好発期。妊娠中の女性が風邪を引き、もしも子宮内感染を起こせば、胎児の中枢神経系の発達に何らかの悪影響が出る可能性もあります。風邪ウイルスによる子宮内感染のリスクは、統合失調症のリスクにつながる可能性もあります。それを裏付ける統計として、冬の寒さが厳しい国々では、赤道直下の一年中気温が高い国々よりも、統合失調症の発症率が高くなる傾向があります。

また、アルツハイマー型認知症の一部にも、自己免疫が関与している可能性があります。アルツハイマー型認知症では、脳内に、老人班と呼ばれる特徴的な病理学的所見が見られます。通常の加齢現象とは異なる、認知能力の病的な低下には、脳内における老人班の形成が深く関与しており、老人班の形成には自己免疫が関与している可能性も示唆されています。それを裏付けるものとして、長年、解熱鎮痛薬を服用されていた方はアルツハイマー型認知症の発症率が低くなっていたという統計があり、その解釈として、解熱鎮痛薬の抗炎症作用が老人班の形成を予防していた可能性が指摘されています。

体だけではない! 免疫の低下は心身の不調のサイン

今回は、心の病気の発症要因の一つとして、免疫系の寄与があることを解説しましたが、最後に、日常生活上で心の病気の予防につながるポイントをまとめます。

まず、風邪が流行っている時期は、「マスクをつける」、「外出から戻れば、うがいや手洗いをする」といった具合に、皆さま、出来る範囲で、出来るだけの対策を取られていると思いますが、特に、妊婦の方は、子宮内感染のリスクはしっかり意識されて、通常の場合より、しっかり風邪予防をお願いします。

また、風邪に限らず、何らかの感染症の症状に気付いた場合、放っておくのはNG! 出来るだけ早く、症状が深刻化する前に、病院を受診されることは、予後を良好にする最大のポイントでしょう。もしも、症状を未治療のまま放置しておけば、もしも感染症の原因が、例えばライム病のように、脳内に侵入できる細菌の場合、深刻な精神症状が生じる可能性もあります。

ところで、風邪を引く時は、往々にして、日常生活でストレスが強い時ではないでしょうか? 実際、強いストレスは免疫系の機能が低下する大きな原因の一つ。欧米での統計ですが、医学生の免疫機能を調査した統計があります。それによると、医学生は最終試験の前になると、ナチュラル・キラー細胞が減少するなど、細胞性免疫が顕著に低下しており、口内炎が生じやすい、傷口が治りにくい、あるいはB型肝炎ワクチン接種後の抗体産生が不充分といった問題が生じやすくなっていました。いったい、どれほどの知識が、その最終試験で必要とされたのか、ちょっと気になりませんか?

もっとも誰だって、自分の限界を超えるような労力を求められれば、ちょっとした事にイライラしてしまうなど、何らかの不調が現われやすいもの。最近口内炎ができやすい、あるいは花粉症の症状が普段より強いなど、何らかの免疫系の不調に気付かれたら、心身が強いストレスにさらされている可能性があります。これらのサインをしっかり意識され、ストレス対策を是非工夫していただきたいところです。
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