景気が悪い時期ほど投信の本数が増える
現在、運用されている投資信託の本数が、9か月連続で増加しました。それだけ、新しく運用が開始されるファンドが増えているということです。4976本といっても、それがどのくらい多いものなのか、なかなかイメージが付かないと思いますので、過去の数字を振り返ってみましょう。
1989年1月から振り返ってみると、最も投資信託の本数が多かったのは、1995年8月末のことで、この時の本数が6457本でした。それが、徐々に減少し、2004年7月末には2525本になりました。
なぜこれだけ本数が減ったのか、疑問に思う人もいるでしょう。この時、投資信託業界で議論されていたのは、「あまりにも本数が多すぎるがために、1人のファンドマネジャーが管理できる能力を超えている。よって、運用ファンドの本数を減らすべきだ」ということでした。運用ファンドの本数が減っていく過程で、純資産残高が1000億円を超えるメガ・ファンドが次々に登場しましたが、それは、ファンドマネジャーの運用効率を上げるという目的が、第一にあったのです。
それ自体は非常に良い議論だと思いますが、その後、再び投資信託の本数が、加速度的に増えていきました。2008年1月に3000本に乗せた後、2011年6月には4000本に乗せました。そして今、まさに5000本に乗せようとしています。
NISAのスタートによって、新規でNISA対応ファンドが設定されたことも原因のひとつでしょうが、過去、投資信託の本数が増えていく過程というのは、景気や株価の低迷期とほぼ一致しています。6000本を超えていた1995年にかけては、バブル崩壊と円高不況の真最中でしたし、3000本に乗せて加速度的に本数が増えていったのは、サブプライムショック、リーマンショック、円高デフレなどによって、日本の景気と株価が低迷した時期でした。
なぜ、景気と株価が悪い時ほど、投資信託の本数が増えるのでしょうか。
それは、手数料が稼げるからです。株式に投資している人は、株価が下落すると持株が塩漬けになり、回転が効かなくなります。当然、株式の売買によって得られる手数料は減少します。その目減り分を補うため、投資信託の販売を積極的に行うようになります。が、古いファンドというのはなかなか売れません。販売につなげるためには、たとえば「このファンドは新しい投資理論を用いています」などと、いかにも新しい投資理論が用いられており、それによって高いリターンが得られるのではないかという錯覚を、投資家に覚えさせる必要があります。だから、新しいファンドが次々に設定されていくのです。
しかし、新規設定ファンドが常に良いものである保証は、どこにもありません。それどころか、リスク要因がいくつかあります。
まず、リスクの度合いが分からないこと。運用されていませんから、実際、マーケットの影響を受けて、どの程度、基準価額が変動するのかが見えません。
次に、長期で運用できるのかどうかが分からないこと。設定額が1000億円超あったとしても、どんどん資金が抜けてしまうケースもあります。あまりにも資金流出が激しいと、繰上償還されるリスクが高まります。
以上の2点から、新規設定ファンドをセールスしてくる営業担当者の口車には、乗らないように注意した方が良いのです。