上海生まれの点心、生煎(焼き小籠包)の正統とは?

生煎

『東泰祥』の生煎は上部が丸くふくらんでいます。直径は約4.5cm、4個で一人前です。

上海発祥の有名な点心といえば「生煎」。「生煎饅頭」や「生煎包」と呼ばれることもあります。日本では「焼き小籠包」の名前でも知られる生煎は、煮こごりを混ぜた豚肉餡を小麦粉の皮で包み、大きな鉄製の鍋で油を使って蒸し焼きにしたもの。食べるときに煮こごりが溶けてスープ入りの餡になるのが特徴です。朝ごはんやおやつの時間に食べる、庶民的な軽食です。

生煎には100年ほどの歴史があるといわれています。小麦粉を半分だけ発酵させて皮をつくるため、手間と技術が必要。1930年代には専門店がたくさんできたそうですが、時代の波にのまれて数が減っていきました。更に90年代に入り経済成長のスピードが増すと、手間のかかる作業が疎まれ、伝統的な技術をもつ職人が激減。代わりに登場したのが新しいタイプの生煎です。『小楊生煎館』というチェーン店がその筆頭。革新派の生煎の皮はほとんど発酵させていないので薄くて硬く、その分スープがたっぷり入っています。熱いスープと濃厚な味わいは若い人の心を捉え、一躍ブームに。伝統的な生煎が次々に姿を消していきました……。そこで立ち上がったのが、今回ご紹介するお店、『東泰祥』なのです。

白玉団子

餡入りの白玉団子「湯團」やワンタンも上海で親しまれてきた食べ物。

『東泰祥』のオーナー、宗沛東(ゾン・ペイドン)さんは上海生まれの上海育ち。元々はワイン事業を営み、若き食通として上海のグルメ界でも知られる人物です。30歳を過ぎた頃、商売だけを目的にした飲食店が急増していることに危機感を覚えます。子どもの頃に食べた味がなくなってきていると感じ、「昔ながらの上海らしい味」を復活させることを決意。伝統的な技術をもつ職人を探し出し、生煎やワンタン、葱油拌麺など、上海で長く親しまれてきた点心の正統なレシピを伝授してもらったのです。そして2006年にオープンさせたのが『東泰祥』でした。1920~30年頃に実在した生煎の名店で、既に廃業していた店舗を復活させました。

 

ポイントはふんわりとした薄い皮

鉄鍋に入った生煎

平底の大きな鍋にぎゅうぎゅうに詰めます。油で焼き上げたあと、水を注いで蒸し焼きに。

データ表

気温や水温、作業の時間などを細かく記録。

小麦粉を半発酵させるには、気温や水温、湿度の変化にあわせて材料の配分や時間等を調整しなくてはいけません。『東泰祥』ではそれぞれのデータを細かくチェック。無発酵や全発酵の点心の皮に比べて手間がかかります。
では、半発酵させた皮とはどのような特徴があるのでしょうか?

一言でいうなら「硬くなく、柔らかすぎない薄い皮」。生地の上の部分がぷうっと丸くふくらみ、中に空洞ができます。ふんわりしているけれど厚みはなく、スープを入れても破れない皮になるのです。底の部分は油で揚げるようにして焼き上げ、カリカリっとした食感。スープの量は控えめですが、餡を噛むとジュワっと口の中に広がります。また、煎った黒ゴマと刻んだ小葱をたっぷりかけるのもポイント。伝統的な生煎は小籠包のようにスープがメインではなく、皮の食感やゴマの香ばしさ、餡とスープの一体感、そして皮と餡の間の空気感を楽しむ点心なのです。

伝統派と革新派、同じ生煎でも特徴が異なるので、両方を食べ比べてみるのも面白いかもしれません。ちなみに、餃子や小籠包の皮は無発酵、肉まんの皮は全発酵させてつくるのだそうです。

 

生の生煎

餡を包んだ状態の生煎。すべて手作業です。

宗さんには「庶民のための日常食こそ安心して食べられるものでなければ」という信念があり、餡に使う肉はすべて自社でひき肉にし、全工程を手づくり。スープは豚骨や鶏ガラなどをベースに4時間かけてとったものを煮こごりにしています。本来の味の復活に、年配客が「なつかしい!」と続々と訪れるようになり、地元メディアにも取り上げられるように。徐々に注目を集め、最近は若いお客さんも増えています。

値段は4個入りの一人前で6元、エビ入り生煎でも10元という安さ。気取らず、手軽に味わえる日常の点心なのです。