世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

ストーンヘンジ:謎に包まれた巨石文明の遺産(4ページ目)

ただ石が並べられているだけなのに、緑の草原に描かれた神秘的で美しいサークルは中世の人々の心を打ち、魔女や巨人の伝説を生み出した。巨石は最大50トンにもなり、250キロメートルも離れた場所から持ち込まれたものもある。その目的とは? 今回はいまだ謎に包まれたイギリスの世界遺産「ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」の歴史や観光情報・遺跡に込められた人々の思いを紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

ストーンヘンジと季節と宇宙の関係

夏至のストーンヘンジ

夏至のストーンヘンジ。毎年1~3万人が集まってヒール・ストーンの先に昇る日の出を祝う

ストーンヘンジの中央から馬蹄型の出口の方向へ直進していくと、祭壇石とヒール・ストーンと呼ばれる巨石がある。1年に1度、夏至の日に、太陽はこの直線の延長線上に昇る。また、冬至の日、太陽はもっとも高いトリリトンの方向へ沈む。

もともとこの辺りは夏至と冬至の太陽の方向がほぼ直角になるような特殊な場所であるらしい。さらに、ブルー・ストーンやトリリトンの中には月の運行を表していると思われるものもある。こうしたことから、この遺跡は天体観測や星々に関する宗教行事と関係があるものと考えられている。

ピラミッド、マチュピチュ、テオティワカン、アンコール、ボロブドウ-ル…世界中の古代遺跡は太陽・月といった天体や方角を強く意識して築かれている。いったいどうしてなのだろう?

古代遺跡に込められた人々の思い

エーヴベリーのストーンアベニュー

二列に石が連なるエーヴベリーのストーンアベニュー

たとえば人が何か記念すべきものを建てるとき、山の上とか盆地の底とかちょっと特殊な場所に造ろうとするだろう。また、記念碑は目立たせる必要上、なるべく自然界にない形がいい。神秘的で特殊でシンプルな形、円や正多角形がしばしば使われるのはこんな理由かもしれない。

では、記念碑をどちらの方向に向けようか?

ものの影を見ていれば、いつも同じ方向で太陽がもっとも高くなることがわかる。この方角を南、この時間を正午という。夜、星を見ていると、星々はその真逆の方角を中心に回っていることを知る。この方角が北で、中心付近に位置する星が北極星だ。こうして東西南北の特殊性を知る。
ストーンヘンジの神秘的な造形

ストーンヘンジの神秘的な造形。子供の頃、世界の謎・宇宙の不思議に打ち震えたあの思いがストーンヘンジには込められている

太陽は東から昇って西に沈むが、季節によって高くなったり低くなったりを繰り返している。この1往復にかかる時間が1年(太陽年)で、もっとも高く昇る日を夏至、低い日を冬至と呼ぶ。夏至は太陽がもっとも北側から昇る日でもあり、もっとも影が短くなる日でもある(以上、北回帰線以北の場合)。

不思議なことに、太陽や星々の動きは人々の生活に直結していた。たとえば太陽がもっとも高く昇る頃に小麦が収穫できたし、太陽がもっとも低く運行する季節には渡り鳥がやってきた。太陽や星々の運行は動植物の動きと結びついていた。宗教建造物が天文学や方角と深い関係を持つのは、それが人間の生き死にに直結していたからだろう。
大湯環状列石、万座遺跡の日時計状組石

大湯環状列石、万座遺跡の日時計状組石。二本の環状列石の間にこのような組石が48基ある。日本にも100基を超えるストーンサークルや組石が存在する

東西南北や太陽や星々の法則性を知って人々は驚いた。どんなものかはわからないが、そこに宇宙の秘密とか神を見て、それを追究し、記念し、残そうとした。私たちがストーンヘンジに惹かれるのも、きっと同じ想いからに違いない。古くから人を惹きつけてやまなかった神秘が、いまもそこにある。

[関連サイト]
  • 前のページへ
  • 1
  • 3
  • 4
  • 5
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます