火災の勘違い1「火事のとき、柱が1本でも残ると保険金は下りない」
めったに起きないものの、起きたら大変なことになる火災。誤解は被災時の致命傷にも
火災保険では、建物が完全に使用できなくなくなっている「全損」状態になっていれば、保険金額が保険金として支払われます。火災により大きな被害が出て、しかしながら柱が1本だけ残っているといった状況で、その建物をこれまで通り使用できることなど、まずないでしょう。
むしろ現在では、建物が半焼したが、その修理費が契約している保険金額を一定額以上上回るといった場合に全損とみなす「経済的全損」という考え方が主流。昨今の火災保険では、保険金額の80%を超える損害を受けた時には全損とみなす場合が多くなっています。
ですから、柱が一本残ろうが、壁の一部が残ろうが、あらかじめ定められた割合以上の損害を受けた場合は全損とみなされ、保険金が全額支払われる、ということになります。
なお地震保険における全損とは、建物の主要構造部(屋根・柱・はり・壁・基礎など)の損害が50%以上、延べ床面積の70%以上の損害が生じた場合をさしますので、火災保険と同じ基準ではありません。
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火災の勘違い2「地震後に火災で自宅が全焼。でも火災保険でOK」
地震が原因で発生した火災による被害は、火災保険の対象にはならず、地震保険の契約をしていないと補償されません。地震によりその後火災が発生すると、建物が倒壊したり、そのため道路が通れないなどの事態が発生します。そうした事態の下では、通常はすぐ到着するはずの消防車が通常通り来られないことも考えられます。消防車が到着せず延焼を止められないと、どこまでも火災は燃え広がり、相当な被害が発生する可能性もあります。
このように、通常の火災ではすまない、悲惨な広域災害に発展する可能性があるため、火災保険では免責となっているわけです。
さらに、地震火災の重大さがあまり理解されていないのも現実のようです。「耐震性の高い住宅だから地震保険は不要」「耐震性が高い住宅に全損はありえない」といった話を耳にすることがありますが、どのような住宅であれ、地震による倒壊は回避できても地震火災で損害を受ける可能性は残っています。
特に、東京の山手線外周部を中心に広範囲に分布する「木密地域(木造住宅密集地域)」は、「東京最大の弱点」とされています。道路や公園等の都市基盤が不十分で、老朽化した木造建築物が多いこともあって、首都直下地震などに起因する火災では大きな被害が発生すると想定されるからです。地震時に建物の倒壊や火災が同時多発的に発生すれば、大規模な市街地火災に至ってしまうかもしれないのです。
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火災の勘違い3「火災で隣家を延焼させても賠償する必要は全くない」
ちょっとした不注意(=「軽過失」)がもとで火災を発生させ、隣家に延焼被害を与えても、火元に賠償責任は生じません。一方、わざとではないにせよ、不注意の結果が充分想定できるにもかかわらず、重大な注意を怠り(=「重過失」)起きた火災については、隣家の被った損害に対して損害賠償義務が生じます。火災以外でも、近隣に損害を与えることがあります。ガスなどによる爆発事故を起こして被害を与えたり、ベランダからモノを落として近隣住民にけがをおわせたといった場合はもちろん賠償しなければなりません。
これらは、法律によって定められています。民法709条により、他人にケガを負わせたとか、他人のモノを壊したときには、損害を賠償しなくてはなりません。しかしながら、ちょっとした不注意によって起こした火災についてだけは、民法の特別法である通常失火責任法により、延焼先への損害賠償は免責となっています。
燃やされ損をカバーするため、誰もが火災保険に入っておく必要がありますが、一方でわが家が加害者となった場合、被害者への損害賠償金の経済負担は深刻です。損害賠償責任に備えるには、個人賠償責任保険や、火災保険や自動車保険にセットされている個人賠償責任補償(特約)の契約が必須です。
■火災保険にセットする個人賠償責任補償とは?
■火災保険の必要性1 延焼被害も賠償なし
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