元気を失った心を包み込む『だんろのまえで』

誰でもふと心が落ち込むことがあります。具体的な要因がはっきりある場合もあれば、どうしてだか分からないけれど、プツッと心の糸が切れたように「何だか疲れたなあ」と思ってしまうことも。大人だけではなく、子どもだってそんな気持ちに陥ることがあるでしょう。絵本『だんろのまえで』は、元気を失って心が迷子になった男の子の心を、暖かなだんろの火とそこに集う動物たちがさりげなく包み込みます。


 


雪山の中で道に迷ってしまった「ぼく」

雪がどんどん降り続ける真っ白な雪山を、小さな男の子「ぼく」が、帽子もかぶっていない顔を雪から守るように少し前かがみになって、歩いています。「小さな“ぼく”が、どうしてこんな雪山に来て道に迷ってしまったの?」。絵を眺める子どもたちにそんな思いがわき上がるかもしれません。やがてぼくは、ドアが付いている大きな木にたどり着き、ドアを開けて中に入ります。

雪から逃れたぼくは、ホッとしたでしょうね。「こっちにおいで」という声に導かれ、ろうそくにマッチで火をつけたぼくが奥に入っていくと、だんろがパチパチと燃える部屋に、動物たちがいました。暗闇に目が慣れてくるにつれて、その存在がはっきりしてきます。ぼくは、声をかけてくれたうさぎの近くに、うさぎと同じポーズで縮こまるように座り、火を見続けます。周りにはたくさんの存在が寄り添っていること、癒されている相手を自分もが癒していることに気づいていきます。


心のよりどころ

読み手まで、ぼくや動物たちと一緒にだんろの前にいるかのように、ポカポカと心が温まってくる柔らかい筆致と色使い。不思議な眠気を誘われる雰囲気の絵本です。そう、疲れたら寝ようよ、なんて絵本の中から誘われているみたいです。

ふっと力を抜くことができる場があれば、人は元気を失ってもまた、回復することができる。温まった心には、「どこででも だいじょうぶ」「どんな ときでも だいじょうぶ」といううさぎの言葉が、子守唄のように感じられます。


あなたを必要としている人がいる

ろうそくの灯

心を温めるともし火

最近、私の親しい友人が、入院生活を送ることになりました。完治までにはしばらく時間がかかるようです。いつも全力で家族や仲間、地域のために力を尽くしてきた彼女は、自由になれない身で、心の置き場に迷ってしまっているかもしれない。短い期間で心も疲れ切ってしまったかもしれない。そんなことを考えている時に我が子が、「最近寒くなってきたから『だんろのまえで』を読んで」と持ってきました。

病気と向き合う友人に伝えたいと思います。あなたが元の生活に戻ってくることを焦らずに心待ちにしている仲間がたくさんいること、あなたの存在に心を癒されている人がたくさんいること、お見舞いのお手紙を書いたつもりが、そのお返事に逆に癒されてしまったこと、雪空の上には必ず青空があることなどを。『だんろのまえで』の絵本とともに。
 

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