お蔵入りとなったアルバム
ガイド:1987年に発売されるはずだった幻のアルバム『BEAUTY & THE BEAST』について。Soundcloudにアップされているのを知り、聴かせてもらいました。これはどうしてお蔵入りになってしまったのですか?
岩崎:
ニューウェイヴやアート寄りのものは、1985年ぐらいまではまだ出せるという感じだったんですが、80年代後半になると、世間的にやたらポップスな方に走り出したのです。レコード会社もそういうものに行きがちで、なかなかあれをやろうという会社がなかったんです。周りにあるものを見れば、チェッカーズや吉川晃司であったり。どういう風に売るというアイデアがレコード会社にもないし。渋谷系以降になると、英語詞のものでもOKになっていくんですが、それが早すぎたといいうか。『MEAT THE BEAT』もSound Designだったから出来たのかもしれないし。
最後のところで出ないという事になって、僕もだんだんどうでもよくなってきたんですが、うちのマネージメントをやっていたプロデューサーはTOKYO FACESというプロジェクトをやっていて、そちらの方に移行させちゃったんです。だから、解体されたような形に。そもそも、TOKYO FACESというのは、CMのプロデューサーが企画したアイデアなので、僕だけでなくて、元E&WFの人とか、楽曲を発注して、全部CMタイアップにしようというプロジェクトだったのです。「TOKYO FACES」という曲は、僕が作ったんだけど、バンド名にするつもりは最初はなかったんです。
TOKYO FACES (Amazon.co.jp)
すべての若き野郎ども
ガイド:1995年にTAMUKI名義でソロアルバム『Beyond Nights & Days』をリリースされていますが、最後の曲が、デヴィッド・ボウイが書いたMott The Hoopleの「All the Young Dudes」(1972年)のカヴァーですね。最近、デヴィッド・ボウイも久々のリリースをしましたが、このあたりの曲はやはり思い入れが深いのでしょうか?
岩崎:
その曲も、高校生の頃、通っていた喫茶店でかかっていました。ムサビの学生とかが多かった。90年代にアシッドジャズっぽいものをやっている時に、この曲にブラスの間奏を入れたいとかいうのもあって。一番、大事なのはタイトルが好きだったという点。若い子たちに焚き付けたりするところ。今言うと、あまりにもリアリティがありすぎるけど。子供の気持ちが分からない大人には成りたくないというか。
ジャズ歌謡
ガイド:岩崎さんは、複数の女性歌手のプロデュースもされていますが、僕が思い入れが深いのは、岡崎葉さんの『Damage』(1994年)。岩崎さんがかなりの曲を手がけられたと思いますが、けだるいフレンチ歌謡としてとても愛聴しました。このフレンチ路線は岩崎さんの趣向だったのですか?
Damage (Amazon.co.jp)
歌謡側から見ても、ジャズ側から見ても、意外と向き合っている部分があって、くっつけちゃうとジャズ歌謡みたいなのは好きなんです。90年代に入る頃、資生堂のために作った、麻倉晶という子が歌った「BABY LIPS」という曲が売れたんです。それで試してみて、まるで井上大輔みたいって言われて…それは褒め言葉なんだけど、僕にとっては。
Pizzicato Fiveとかのジャズや映画音楽のモチーフをやっていましたが、彼らよりは洗練されていなくワイルドなもの。時代の気分としてやりたかったんです。だから、岡崎葉ちゃんのは、時代の空気もありました。歌唱力があんまりなかったから、アンニュイになっちゃったけど、あれは彼女のキャラクターでもある訳です。
BABY LIPS (YouTube)