「昆虫の王様」はドイツ語で?
まずは日本の子どもに人気の甲虫類から行きましょう。ドイツ語での呼称はKäfer(ケーファー)。Kauer(かじるもの)に由来する語で、ご存知フォルクスワーゲン社のビートルも、本家ドイツ語での名称はこのKäferとなります。鹿に似てないことも…ない?
その他、日本で人気の昆虫であるホタルはLeuchtkäfer(ロイヒトケーファー)。Leuchteは「明かり」なので分かりやすいでしょう。別称としてGlühwürmchen(グリューヴュルムヒェン)、つまり「燃え立つ(glüh)小虫(Würmchen)」もあります。
一方で、Marienkäfer(マリーエンケーファー/聖母マリアの甲虫)あるいはHerrgottskäfer(ヘアゴッツケーファー/主なる神の甲虫)と、なにやら神々しい名で呼ばれているのはテントウムシ。もっともこちらも漢字では「天道虫」なので、神々しさではドイツ語にひけをとってはおりません。
「いただきます!」をする虫とは?
続いてその他の野外の虫を。まずチョウはドイツ語でSchmetterling(シュメッターリング)。Schmetten(生クリーム)に由来し、魔女がチョウの姿でミルクやクリームを盗んでゆく、という民間伝承が命名の元だそうです。そういえば英語でもbutterflyと、butterがついていますね。そのチョウの子である芋虫・毛虫類はRaupe(ラオペ)。
日本では童謡でも親しまれているトンボは、ドイツ語ではLibelle(リベレ)といいます。ラテン語のlibella(天秤)由来で、翅を広げて飛ぶ様子がはかりで釣り合いをとっているかのように見えることからの命名。そして忘れてならないのがドイツの童話『みつばちマーヤ(Biene Maja)』でおなじみのBiene(ビーネ/ミツバチ)。一方、スズメバチ科はWespe(ヴェスペ)やHornisse(ホルニッセ)と称されます。ちなみにハチに似た昆虫であるアブはBremse(ブレムゼ)。自動車のブレーキと同じつづりですが、こちらはbrummen(ブルメン/ブンブンいう)という擬音由来の名称です。
アリは「甘いぜ」とでも覚えておきましょう
さてもう一つ、際立った名称を持つ虫がGottesanbeterin(ゴッテスアンベーテリン)。「神(Gott)を崇拝する(anbeten)女性」という意味ですが、何だか分かりますか? 実はカマキリのことで、鎌状の前肢を合わせ獲物を狙う姿が、神に祈りを捧げているかのように見えるというわけです(食前の祈りでしょうか?)。
千の足に乗って
最後に、いわゆる害虫の類を紹介しましょう。日本でおそらく最も嫌われている害虫といえばゴキブリ。ドイツ語圏で普通目にすることはありませんが、Küchenschabe(キュッヒェンシャーベ)という呼称があります。schaben(削ぎ落とす)、つまり「かじる」に由来する名です。Kakerlak(カカラク)という別名も持ちます。
同じく家庭の害虫とされるハエはFliege(フリーゲ)といい、英語のfly同様、fliegen(飛ぶ)から出来た名です。ちなみにその幼虫であるウジはMade(マーデ)と称されます(ですので“Made in Japan“はドイツ語では「日本のウジ虫」という意味になってしまいます)。
害虫といえば、刺されると厄介な虫もいますね。カはMücke(ミュッケ)、シラミはLaus(ラオス)。ノミのFloh(フロー)の名は"Flohmarkt(フローマルクト/蚤の市)"でお馴染みかもしれません。
暇な人は足を数えてみてください
そしてドイツ語圏で特に危険な害虫とされるのがZecke(ツェッケ)ことダニ。刺されると致命的な症状に至りかねぬ毒を持つ種がいるため、地域によっては予防接種も推奨されている次第です。
虫といえばまずは子供の頃の昆虫採集を思い出しますが、こうしてドイツ語(欧語)圏という異なる文化圏での命名のありかたを知ってみれば、様々な虫の慣れ親しんできた呼び名も再度新鮮な響きを取り戻す気がします。言葉の学びが世界の見かたを変えるものだということを、改めて思い起こさせる機会といえましょう。