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ドイツ語定冠詞の格変化……現代詩で学ぼう!

ドイツ語初心者の困惑の種といえば「格変化」。特に定冠詞では英語のtheが名詞の性・数・格によってderになったりdieになったりで、少なからぬ方が頭を悩ませているのではないでしょうか。今回は、ある詩を用いた覚え方の手順をご紹介しましょう。

宮城 保之

執筆者:宮城 保之

ドイツ語ガイド

<目次>

ドイツ語定冠詞の格変化……基本を解説!

ドイツ語定冠詞の格変化

ドイツ語定冠詞の格変化

まずは格変化入門記事で用いた表を再掲します。
Deklination

名詞の性、格に応じた語尾変化


ich等人称代名詞の格変化は英語の"I, my, me"風に覚えるとしまして、似ているだけに混同しやすいのがこの定冠詞の格変化。しかし入門記事で記したようにこの変化表には意味と働きのしるしとなる格語尾情報(下線部)が含まれており、ドイツ語文を解するにはまずはこれを覚えぬわけにはゆきません。

もちろんこちらも「デア、デス、デム、デン」等と繰り返し口ずさんで覚えても良いのですが、それではちょっと味気ない、という皆さんのために、一つアイデアをだしてみましょう。
 

格変化表? 実は具体詩

まずは以下の引用をご覧ください。
 
der tod
des todes
dem tod
den tod

der tod des todes
dem tod den tod

出典:Ernst Jandl: Poetische Werke, 3. Band, hrsg. von Klaus Siblewski, München: Luchterhand Literaturverlag, 1997

これはオーストリアの詩人エルンスト・ヤンドルErnst Jandl 1925-2000)による作品の一つ。詩という体裁をとっていますが、ご覧のとおりder tod(デア トート/死、死神)、つまり英語のdeathに当たる語の格変化表からなっています。ちなみにドイツ語の原則では名詞の頭文字は大書する(der Tod)のですが、ここでは視覚的効果のためか小文字で始めていることにはご注意を。

まず前半の詩節。

der tod      (デア トート/死が)
des todes  (デス トーデス/死の)
dem tod   (デム トート/死に)
den tod   (デン トート/死を)

文法書でご存知、定冠詞付き男性名詞の格変化まんまですね。そして後ろの詩節はといえば、

der tod des todes
dem tod den tod

という風に、前節の語を並べ替えただけのもの。ところがこの詩の面白いところは、この後半節では語の組み合わせにより、前半の表には見られなかった意味が浮かび上がってくる点にあります。

der tod des todes (デア トート デス トーデス/死の死)

「死の死」(あるいは「死神の死」でも)。一行目と二行目を連ねると、なにやら撞着語法めいた表現になりました。

そして最後の行。

dem tod den tod (デム トート デン トート/死に死を)

こちらは事実報告調の前行に比べ、「死に死を!」と、死という無常に反抗するスローガンめいた響きを帯びることになっています。

そしてこの後半二行の間に例えばbringen(ブリンゲン/もたらす)といった動詞を補ってみれば、

der tod des todes [bringt] dem tod den tod
(死の死は 死に死を [もたらす] )

という、判じ物のような句も出来上がるわけです。
 

中性、女性、複数と順々に

このヤンドルの詩の面白さは、一見味気ない文法表の配置が少しずらされただけで読み手の側に解釈が呼び起され、「死」という単語の象徴性も相まって哲学的な意味合いが現れ出る点にありましょう(彼はこのように視覚的効果を活かした具体詩を数多く著しています)。

さて、まずはこの詩をまるごと覚えるとしましょう。視覚的・意味的効果を十分に味わいながら暗誦してみてください。覚えましたか? では皆さんは、すでに男性名詞の定冠詞付き格変化を覚えたことになりますね。

そうしますと、次は中性名詞の格変化、

das Leben  (ダス レーベン/生が)
des Lebens (デス レーベンス/生の)
dem Leben  (デム レーベン/生に)
das Leben   (ダス レーベン/生を)

der Tod(死)との対比で、das Leben(生)を例にしてみました。男性名詞での定冠詞格変化をすでに覚えた皆さんにとって難しくはないでしょう。というのも、男性名詞のほうと異なるのは1格と4格だけであり、こちらではそれがどちらもdasなわけですから。

男性・中性と覚えたら、次は女性名詞の定冠詞付き格変化。

die Geburt  (ディー ゲブーアト/誕生が)
der Geburt (デア ゲブーアト/誕生の)
der Geburt (デア ゲブーアト/誕生に)
die Geburt  (ディー ゲブーアト/誕生を)

男性・中性に比べてはるかに簡単ですね。何せ上下対称で、名詞のほうには変化語尾も付かないのです。

女性名詞でも覚えましたね? それでは最後に複数形を。これは男性・中性・女性いずれでも同じ変化形です。

die Leute  (ディー ロイテ/人々が)
der Leute  (デア ロイテ/人々の)
den Leuten (デン ロイテン/人々に)
die Leute  (ディー ロイテ/人々を)

女性名詞での格変化との違いは3格のみ。名詞語尾の-nを落とさぬよう気をつけて。
 

まずは確かな足場から

以上、まとめますと、
version2

下線部を順におさえてゆくこと


これでドイツ語文法の基本である、定冠詞付き名詞の格変化を覚えたことになります!

外国語の文法学習でつまづく要因には、暗記事項が多くどこから手をつけてよいか分からないという点が挙げられるでしょう。まずは一つ、今回のヤンドルの詩のような形で、しっかりとした足場を作ることです。そこから一つ一つ事項を順序だてておさえてゆけば、一見複雑なドイツ語文法にもすっきりとした見通しが得られますよ。

【参照記事】
デア、デス、デムはcaseのしるし ドイツ語の格変化
 
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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