ストレス/仕事・職場のストレス(パワハラ・セクハラ等)

パワハラの定義とは?チェックすべき6つの行為類型

【公認心理師が解説】パワハラの定義とは一体どこにあるのでしょうか?「パワハラ」という言葉は知っていても、具体的にどんな行為がパワハラになるのかが分からない方が多いのではないでしょうか。パワハラの法的定義と厚生労働省がまとめた6つの行為類型をもとに、パワハラ行為を確認してみましょう。上司・部下の関係に限らず、職場で働くすべての人が知っておくべき知識です。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

パワハラの定義と行為類型

上司に意見をいう女性社員

定義と行動類型を知らないと、指導のつもりがパワハラになってしまうことも

指導のつもりで言った言葉や、相手のためを思って指摘したことを「今の言葉、きついですよ。パワハラになってしまうかもしれないから、注意した方がいい」などと言われて、ハッとしたことはありませんか? 「若い頃は、私も同じこと毎日言われてたのに」「このくらいでパワハラと言われるなんて……」という気持ちがあるかもしれません。しかし、職場におけるパワーハラスメントは2019年5月に可決・成立した改正労働施策総合推進法 第30条2項により、下記のように明確な定義づけがされ、事業主には防止措置を講じることが義務化されています。
 

改正労働施策総合推進法 第30条の2
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 
同法にもとづき、厚生労働省ではパワーハラスメントに該当する行為を6つの行為類型にまとめています(ただし、これだけをパワハラだと限定しているわけではありません)。
 
  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害

 (2)から(6)までの行為は、継続性と反復性が問われますが、「一度だけ」と思っていても、無自覚のうちに繰り返していることがあります。「一度でもやらない」ことを前提に考えましょう。
 

パワハラの定義…行動類型①身体的な攻撃

叩く、殴る、蹴る、胸ぐらをつかむ、物を投げつけるなど、身体に攻撃を与える行為です。
 

パワハラの定義…行動類型②精神的な攻撃

人格を傷つける発言をする、大声で罵倒して暴言を吐く、必要なく長時間にわたり叱責する、相手の失敗を嘲笑する、というように精神的に傷つける行為です。

指導する際に、「何をやらせてもダメだな……」「また失敗か。使えないな」といった人格を否定するような言葉を繰り返し継続的に伝えている場合、このハラスメントに該当します。
 

パワハラの定義…行動類型③人間関係からの切り離し

職場や仕事仲間との関係において、特定の人物を排除する行為です。

気に入らない人を無視する、必要な情報を与えず孤立させる、メンバーであるのに理由なく一人だけ会議に呼ばないなどの行為が該当します。
 

パワハラの定義…行動類型④過大な要求

本人の努力では、明らかに実現することのできない無理な要求をする行為です。

達成不可能なノルマを課し、達成できないことで強く叱責する場合が該当します。また、業務とは関係ない私的な用事を強要する場合も、この行為に含まれます。
 

パワハラの定義…行動類型⑤過小な要求

特定の人にだけ仕事を与えない、明らかに相手の能力や経験に見合わない仕事ばかりを与えることで、不安にさせる行為です。

気に入らない労働者を辞めさせるために、意図的に仕事を与えず手持ち無沙汰にさせる場合などが該当します。
 

パワハラの定義…行動類型⑥個の侵害

プライベートの時間に私的な誘いに無理に付き合わせたり、個人的なことを詮索したり、本人の了解なく個人情報を暴露したりする場合が該当します。
 

部下から上司・同僚の間でもパワハラになる可能性も

パワハラに地位は関係ない?

パワハラは、「上から下」の一方向のみで行われるとは限らない


一般的には、職場のパワハラは「上司から部下へ」の行為だと思われることが多いと思います。しかし、パワハラは特定の地位や立場に限った行為ではありません。先に紹介した改正労働施策総合推進法の定義から、特に次の2点を押さえておく必要があります。

(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの


(1)優越的な関係を背景とした言動
たとえば、既存の職員が新入職員を仲間外れにする、専門性の高い知識を持つ人が常に威圧的な態度で接する、誰か一人を集団で無視する――上司と部下という地位を利用した行為ではなくても、これらの行為は「優越的な関係」を背景にしたパワハラだとみなされます。つまり立場に限らず、誰でも加害者、被害者になる可能性があります。

(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
たとえば、相手の行動の誤りに気づいた時に「ここを間違えていますね。以後、気を付けてください」と注意するのは、適正な範囲での指導と言えます。

一方、相手が既に理解し、反省しているのに同じ注意を何度も繰り返して叱責するような場合は、「必要かつ相当な範囲」の業務から逸脱しています。
 

パワハラ対策・パワハラ対処法

パワハラは周囲に相談することも大切

パワハラの被害に悩むときには、相談窓口や信頼できる人に相談することも大切です

「パワハラを受けているのかも?」と感じる方は、ご自分が受けている行為が上記の職場のパワーハラスメントの定義や6つの行為類型に当たるのかどうか、よく振り返ってみることが大切です。

そして一人で考え込まず、信頼できる人に相談したり、職場の相談窓口などに相談してみるといいでしょう。また、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなどでも、相談に乗ってもらえます。

「どんな屈辱にも耐えられなければ、仕事では生き残っていけない」「家族を養うためにも、何を言われても受け流さなければ」というような考えから、耐えがたい苦痛を受け続けているのに我慢してしまう方もいます。しかし、そうしてストレスを抱え込むと、やがて心の病を発症してしまうこともあります。

パワハラに気づくにはまず、つらい、怖い、苦しいといった自分の素直な感情に気づくことが大切です。そして、自ら相手に働きかけることに限界を感じるなら、周囲に相談をしましょう。話を聴いてもらえるだけで楽になることもありますし、解決につながる助言やサポートを受けることもできるでしょう。

仕事での苦労を乗り越えることは、「パワハラに耐えること」ではありません。労働者には、パワハラを受けずに仕事をする権利があります。パワハラに気づいたらその問題を抱え込まず、相談を含めた合理的な解決方法を見つけていきましょう。
 

パワハラの定義に関してよくある質問

Q. 学校でのパワハラの定義とは?

A. 学校でのパワハラには、教員から生徒・学生に対して行われる「アカデミックハラスメント」、生徒・学生間で行われる「いじめ」などがあります。アカデミックハラスメントは、各教育機関で定義されており、いじめは、いじめ防止対策推進法にもとづき、文部科学省により定義が公表されています。
>> いじめ防止対策推進法とは?学校と交渉をするために抑えたいポイント[いじめ問題・対策] All About

Q. パワハラの結果、裁判になった事例はありますか?

A. パワハラを受けた被害者が精神的、立場的に追い込まれ、職場内で十分な対策が取られなかった場合、被害者から損害賠償を求められる場合があり、ケースによっては裁判になることもあります。パワハラ被害を苦にして被害者が自殺をしてしまった場合、遺族から職場や行為者に対して損害賠償請求の訴訟を起こされることがあります。

裁判事例はたくさんありますが、話題になった事件としては、千葉県がんセンター事件(2014年 東京高裁判決)、川崎市水道局事件(2003年 東京高裁判決)などがあります。


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