児童虐待でイメージするもの
日々子どもと全力で向き合っている親は、感情が爆発して子どもに手をあげてしまったり、きつい言葉を投げかけてしまったりした時に、自分は虐待をしてしまっているのではないかという自責の念でいっぱいになります。これも大きな心のSOSの1つです。しかし、違う形のSOSもあります。疲労感が解消されることなくたまり続け、食事の準備をはじめ、親子ともに健やかな毎日を過ごすための最低限のことをする気力も低下してきているような状況が続くと、ネグレクト(育児放棄・育児怠慢)という形の虐待につながる恐れがあります。また、母親のみに育児の負担が大きくのしかかり、パートナー間での争いや暴力が絶えないような状況は、子どもの健やかな成長に少なからぬ影響を与えることが心配されます。「今、自分は行き詰まり感を抱え過ぎていて、危ないかもしれない」。まだ、自分自身で自分の状態をとらえることができている段階で、話を聴き、一緒に子どもの世話をしたり出かけたりする存在がいることで、気持ちを吐き出し、少しずつ元気を取り戻してもらう。ホームスタート事業が目指すのは、誰もが無縁ではない虐待という段階にまで上り詰める親が減るよう、防ぐ役割です。
対象は、密室育児に陥っているケースだけではない
講演会では、ホームスタート事業を始めて4年目のNPO『ココネット あおもり』(青森市)代表による、事例紹介もありました。利用する母親は、1日中家で小さな子どもと向き合っている母親だけではありません。時間に追われる中で、自宅と保育園と職場のみを行き来する母親が、ホームビジターに、「大変なんです」という日頃こらえていた思いを吐き出すことで、自分の気持ちを冷静に見つめ、元気を取り戻していくことができた例も紹介されました。今回、函館での講演会開催に尽力した、函館市の子育て支援グループの代表・風間美智子さんは、乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)の訪問相談員として、生後4か月までの赤ちゃんがいる家庭を訪問する中で、深刻な育児不安と紙一重の状態にある“グレーゾーン”の広さを痛感。1回で終わる訪問だけではなく、継続して話を聴いてフォローできる体制を模索する中で、ホームスタート事業に着目したといいます。
孤独な子育てから、心地よい、安定した子育てへ。