世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

ベネチアとその潟/イタリア(2ページ目)

400の橋、177の島、150の運河からなる水の都ベネチアは地中海最強を誇った海洋都市国家。ルネサンスの舞台でもあり、ビザンツ・ルネサンス・バロック・イスラムが混在する華麗な建築物が立ち並んでいる。裏通りを歩けば運河と歩道が入り組んだ迷路のような家並みが広がっており、舟巡りと町歩きが最高に楽しい街でもある。今回は文化遺産登録基準6項目をすべて満たしたキング・オブ・世界文化遺産「ベネチアとその潟」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

海洋都市国家ベネチアの至宝

サン・マルコの鐘楼から眺めたベネチア

サン・マルコの鐘楼からの眺め。上がサン・ジョルジョ・マッジョーレ島とその教会。下の2本の柱、左の柱上にはベネチアの象徴「サン・マルコの獅子」、右の柱上には「聖テオドーロ」が飾られている

サン・マルコ鐘楼から眺めたベネチアの街並み

こちらもサン・マルコの鐘楼から眺めた街並み。下に見える5つのタマネギドームがサン・マルコ大聖堂

もちろんベネチアは単なる古都ではない。最盛期には「アドリア海の女王」とうたわれ、地中海貿易を牛耳った軍事海洋都市国家だ。

ベネチアの政治・経済・文化の中心がサン・マルコ広場だ。ナポレオンが「世界でもっとも美しい空間」と絶賛した広場で、ロマネスク・ゴシック・ルネサンス・バロック・ビザンツ・イスラム等々多彩な建築様式が混ざり合った華麗な建物が立ち並んでいる。

その中でもっとも重要な建物が、ベネチアの守護聖人(街の守り神)・聖マルコを祀るサン・マルコ大聖堂だ。華麗なポルティコ(正面玄関の玄関廊)、巨大なタマネギドーム、黄金で覆われた室内空間を持つビザンツ建築の傑作で、ベネチアの象徴となっている。

 

アルセナーレ

12世紀に建造され、多数の軍艦を築いて海洋都市国家を支えた国立造船所アルセナーレ

サン・マルコ大聖堂の周辺には、総督府が置かれた政治の中心ドゥカーレ宮殿、行政の中心である新・旧行政庁、中世ベネチアの生活の様子を伝えるコッレール博物館、ベネチアの公式時計ムーア人の時計塔、ルネサンスの名建築サン・マルコ図書館などがある。この辺りの街並みは中世の豪壮な文化と、地中海に覇を唱えた海洋都市国家の強烈な主張を感じさせる。

そして、地中海最強を誇ったベネチア海軍を生み出したのが国立造船所アルセナーレだ。12世紀以降、ここで建造した多数の軍艦によってアドリア海貿易を支配。ビザンツ皇帝の依頼でビザンツ帝国(東ローマ帝国)を守るようになると、西アジアとの東方貿易(レヴァント貿易)によって莫大な富を手に入れた。

 

後期ルネサンスの担い手ベネチア

サン・マルコ大聖堂のポルティコ

サン・マルコ大聖堂のポルティコ(玄関廊)のモザイク。イエスの物語や聖マルコの遺骸をベネチアに運ぶ様子が描き出されている

海軍力と東方貿易によって得た富を背景に、ベネチアは芸術家を庇護。14~16世紀にはフィレンツェやローマで発展したルネサンスの流れを引き継いで後期ルネサンス~バロックの舞台となる。

サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会

サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会。10万本の木組みを土台としており、その上に石を並べて建設されている

ベネチアはもともとギリシアに近く、ビザンツ帝国の領土だった時代もある街。ギリシアやビザンツ初期の華やかな芸術を引き継いでいるし、東方貿易によってアラブやペルシアの繊細な装飾文化も伝わっていた。これらがルネサンスに豊かな色彩と軽やかさを与えた。こうした芸術派閥をベネチア派と呼ぶ。

ベネチア派の代表がベネチア三大画家、ティッツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼだ。彼らの作品はアカデミア美術館をはじめ主だった教会で見ることができる。

建築物では、白大理石で造られたルネサンスの傑作リアルト橋、サン・マルコ広場の対岸に浮かぶサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会、巨大なクーポラ(ドーム)と正八角形の土台が美しいサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会などがルネサンス時代の栄光を伝えている。

 
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