シューレースが進化すると、こうなるのか?
飯野はとある専門学校でファッションの歴史の授業を持っています。20歳前後の若い世代を教えるので、いわゆるジェネレーションギャップを大きく感じつつ(涙)、余計な偏見に囚われていない彼らの純粋な感性から教わることも非常に多くあります。彼らは何せ元気があるので、それに立ち向かってゆくのには物凄いエネルギーが必要で、講義を終えた帰りの電車の中ではいつも爆睡状態。そんな夏休み前の授業中、ある学生が履いていたスニーカーの「紐」にふと眼が行きました。と言うか実は紐ではなくて、何かカラフルな細いゴム粘土みたいなものを各列の左右の鳩目に通してあって、それぞれの真ん中でソケットみたいなもので留め合わせている……。
「なにそれ?」
「えー先生知らないの? HICKIES(ヒッキーズ)。靴紐の代わり」
どうやらスニーカーの靴紐の結び・解きを面倒に思ったアルゼンチン出身の学生が考案したもので、アメリカで商品化したら大受けして、日本でも最近売り始めたらしいのです。
「そんなに靴紐を結んだり解いたりするのって、面倒なものなのかな?」
「紐のないスリッポン系のスニーカーを履くっていう発想にはならないのかな?」
「こう言う商品が出て来るってことは、靴紐=微調整する役割のものって言う意識が、世間ではもはや完全に欠落しているのかな?」
そこまで考えるなよって言われそうですが、正直に話すと、第一印象はそんな感じの、何か往生際の悪さみたいなものを覚えたのは事実です。最近は以前ほどではないにせよ欧米のしかるべきマナーでは、靴紐の都度の結び・解きを面倒がり一度結んだままの状態でユルユル履きする人は、物事の大事な過程を省きたがる人として軽蔑される風潮が、日本より遥かに強いのをご存じの方も多いでしょう。そんなことも脳裏にかすめましたし、これを過信して靴ベラを使わずに踵部を指で後ろに引っ張って靴を履くのが当たり前になると、結果的に靴の寿命が縮まってしまうのでは? とも、瞬間思った訳です。でも……。
「待てよ。硬い頭であれこれ考えるだけで、実際に使わず評価してしまうのも良くないな」
一方でそんな思いも、同時にピンと浮かんだのです。現にそれを使っていた学生も、
「パシッと締まるしマジで快適なんですよ!」
って話していましたし。ならば試しに買って使ってみましょうか、スニーカーではなく、敢えてドレスシューズに!
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