運動は慢性腰痛には有効ですが、急性腰痛には効果がありません。急性腰痛では、腰痛体操をしても機能障害、痛みの程度に差が出ません
平成22年国民生活基礎調査によると、腰痛は、日本人男性第1位、女性第2位に訴えの多い症状です。腰痛に悩むたくさんの人々が、的確な診断と適切な治療を求めて病院を受診します。しかし、満足な医療が受けられないと、しつこい腰痛はなかなか改善しません。すると、腰痛に追い込まれた人々は、さらなる治療を求めて効果があやしく論拠に乏しい療法や自己流の腰痛対策で痛みを紛らすしかない状況に陥ります。
そこで、日本整形外科学会や日本腰痛学会が中心となり、腰痛の新たなガイドラインである腰痛診療ガイドライン2012が作成されました。その特徴は、文献検索によって医学的論拠(EBM)の高い論文を吟味し、腰痛治療効果のあいまいさをなくすよう工夫されていることです。さらに、EBMレベルに準じた推奨度をつけて、腰痛の解決策ごとの評価が簡単にできるようになっています。
一般的に、腰痛には運動が効くと言われています。しかし、本当に運動は医学的研究によって腰痛に対する効果が実証されているのか? さらに、どんな運動が腰痛に効くのか? などの問題があります。今回は、腰痛診療ガイドライン2012から、腰痛と運動についてお話しします。
腰痛診療ガイドライン2012の腰痛解消推奨度
腰痛診療ガイドライン2012では、腰痛を解消するための推奨度が、5段階で評価されています。
Grade A : 質の高い証拠、強い根拠があり、行うよう強く推奨する
Grade B : 中等度の根拠に基づき、行うよう推奨する
Grade C : 中等度の証拠が少なくとも1つあり、行うことを考慮してもよい
Grade D : 肯定できる論文はなく、推奨しない
Grade I : 委員会の診断基準を満たす証拠がなく、まだ結論が一様ではない
急性腰痛には運動療法は効果がない
運動が腰痛に効くのか?という問題について、腰痛診療ガイドライン2012では次のように解説しています。
Grade B : 急性腰痛(発症から4週未満)には運動療法は効果がない
Grade C : 4週間~3か月の腰痛に対して、運動の効果は限定的である
Grade A : 3か月以上続く慢性腰痛への有効性には高い証拠がある
Grade B : 運動の種類による効果の差はない
Grade I : 適切な運動量、頻度、期間については、不明である
結果は、まさに腰痛の一般常識を疑え! と言えるでしょう。発症から4週間以内の急性腰痛症に対しては、運動療法をしてもしなくても痛みの軽減に差はなく、機能障害の改善効果も認められないと結論付けています。また、いくつかの腰痛体操に関しても、体操の種類による差はなく、仕事に対する影響や痛みに対する差もない、と明記されました。
慢性腰痛には運動は効果がある
自己流の運動より、医師や理学療法士、心理療法士などの管理下で、オリジナルのプログラム運動を行うと、より効果的に腰痛が改善します
急性腰痛に効果を認めない一方で、慢性腰痛の痛みや機能障害の改善には、運動は効果があるようです。運動を開始して1年以内では、仕事の欠勤日数を減らし、職場復帰率を増やす効果もあります。また、家庭で行う有酸素運動でも、薬の使用量を減らし気分を改善するなどの効果があるようです。
4週間~3か月の腰痛に対する運動療法
運動療法と運動以外の治療方法では、痛みの軽減や機能障害の改善に差は認められません。しかし、段階的に活動量を増やす運動では、職場への欠勤日数を減らす効果があります。腰の痛みに応じた活動を維持しながら、適切に運動を行うことが大切な時期です。
慢性腰痛に有効な運動頻度
慢性腰痛症の改善には、どのくらいの頻度で、どんな運動を行ったらいいのでしょうか? ガイドラインによると、運動療法の頻度は、週に1~3回程度行うことが推奨されています。腰を伸ばす筋肉に抵抗を加える運動を、まず4週間は週に2回、その後6週間は週1回程度で、腰を伸ばした時の痛みなどが改善するようです。運動期間は、骨格筋の変化まで期待するなら、最低10~12週間の抵抗運動が必要です。運動開始時期については、発症から12週間以内に運動を開始した方が、欠勤日数が減少する報告があります。
腰痛に効果的な運動とは?
腰痛には、強い運動がより効果的とは言えません。強い運動と弱い運動の比較では、確かに強い運動の方が腰の筋力や持久力を増加しますが、痛みや機能評価などの臨床成績には差がありません。また、全身運動と体幹筋コントロール運動、そして脊椎マニピュレーションの比較でも、6か月以上では腰の機能回復に差がありません。マッケンジー法については、短期的な有用性についての論文はありますが、1年以上の長期的な効果は不明です。
腰痛をより効果的に治療するには?
家庭で独自に行う運動では、他者評価によるフィードバックがありません。腰痛には、理学療法士などの管理下に個別プログラム運動がより効果的です。そして、積極的運動療法と心理行動療法の併用によって、さらに腰痛治療効果が上がります。医師、理学療法士、心理療法士など、さまざまなアプローチから適切な運動プログラムを組むことで腰痛改善効果がアップし、長期成績が改善します。