高セキュリティーの条件とは
一つには非常口があること。そして、ボディガード同士がしっかりと連携し合い、そのシールドの中に「王」が入っていること。この2点を満たしていることが、高セキュリティーな囲いの条件なのだ。もちろん100%の囲いなんてものはあり得ない。また、そんなものがあれば、将棋の魅力は消え失せてしまう。たとえば、以前にご紹介した「カニ囲い(関連記事)」は王の動きがよく、非常口という観点では力を発揮するが、連携という点では弱い。相手の陣形、そして、自分の陣形、この2つから状況を考え、最適の囲いを選んでいかねばならない。それは、ちょうど、オートロックにするのか、チェーンをつけるのか、ダイヤルキーか、はたまたシリンダーキーにするのか、などと考えるのと同じことなのだ。全部、装備したらいいじゃないか。そんな声もあるだろう。だが、それではコストがかかる。実は、このコスト計算も、将棋の囲いを考える上で重要なのだ。唐突で恐縮だが「3匹の子豚」という物語をご存じだろうか。
3匹の子豚に学ぶ「囲いのコスト」と相手
どの家が安全か/画:ガイド
ところがである。もし、オオカミが、もっと早くやってきていたらどうなっただろうか。レンガの家はまだ完成していない。わらの家なら、丈夫ではないものの、隠れることくらいはできるだろう。この場合は、コストの低いわらの家が高セキュリティーということになる。また、相手がオオカミではなく、洪水だったらどうだろう。木の家なら、材料にしがみついて浮き輪の代わりにできる。わらやレンガでは無理。かように、コストだけでなく、相手によっても安全度は変わってくる。ケースバイケースなのだ。
話を将棋に戻そう。囲いにおけるコストも、材料面と労働時間から考えなければならない。材料面とは駒の種類と数、そして、労働時間とは囲いが完成するまでにかかる手数だ。そして、相手とこちらの陣形。また、連携と非常口という設計図が、あなたが囲いを造る上での大切な要素になるのだ。
ちなみに、初心者囲いは材料面では「金」2枚「銀」2枚。労働時間は2手ということになる。材料のコストは高いが、労働時間は低コスト。だが、いかんせん、設計図が悪かったのだ。
では、いよいよ高セキュリティーの囲いを紹介しよう。3匹の子豚にちなんだわけではないが、代表的で実践的な囲いを3つ紹介しよう。初めのうちは3つ覚えておけば、十分戦えるのだ。
矢倉囲い(やぐらがこい)
右図が矢倉囲いと名付けられた囲いである。「金矢倉」と呼ぶ場合もある。材料コストは「金」2枚に「銀」1枚。これは標準コストといえるだろう。ただし、労働時間(手数)がかかることは覚悟しておかねばならない。こちらは高コストだ。
お城のやぐらが名前の由来
ちなみに、左辺に王がいる以上、自分の最大の攻撃力を持つ飛車は右辺からの攻撃をねらうべきだ。
名前の由来は、お城の「やぐら」である。 相手が上部からの攻撃をねらってきた場合は、この矢倉をおすすめする。
舟囲い(ふながこい)
右図が舟囲いである。図の状態での材料コストは「金」2枚に「銀」2枚、「角」も協力している。だが、将来的には、どちらか1枚の「銀」と「角」は攻撃に参加していくことになるだろう。とすれば、「金」2枚、「銀」1枚の囲いだとも言える。これならば、材料は矢倉と同じ標準コストとなる。労働時間(手数)は矢倉に比べて低コスト。もちろん非常口も上部に用意されている。ちなみに、この名前は、王が舟に乗っている形からつけられたもの。わかりやすいように補助線を引いてみたが、いかがだろうか。
美濃囲い(みのがこい)
美濃囲いは、材料コストは「金」2枚、「銀」1枚で、矢倉や舟と変わらないが、労働コストが低いのが特徴だ。また、その金銀がお互いに守り合っていて、ロスがない。非常の場合は右辺から脱出する設計だ。この囲いは左辺、つまり横からの攻撃に強い。相手がそのような攻めできたら、迷わず、美濃囲いだ。こちらの飛車も左辺に展開させよう。
名前の由来については、定かではないものの、美濃国出身の棋士が創出したからという説がある。