マークのトート&アンネミーケのエリザベートによる「愛と死の輪舞」
クールな大人のトートが出現
『エリザベート』のトートって、今までは耽美的だったり、中性的だったり、或いはやんちゃだったりと、結構デコラティブな役として作られていた気がします。もちろん皆、それぞれ魅力的なんですが、死の影としてもっとシンプルなトートがいてもいいかな、と思っていた矢先、現れたのがマーク・ザイベルトのトート。とにかくカッコいいです。クロのスーツに身を包み、クールな雰囲気ながら、身体の大きさもあり、こんなトートなら確かに一生逃れられないだろうな、いや、逃れなくてもいいなあ、とも(笑)。今年10月からはドイツで『ジーザス・クライスト=スーパースター』ジーザス役を演じるという朗報も。今回、華々しい日本デビューを飾ったマークさんにお話を伺いました。
マーク・ザイベルトにインタビュー
(c)Mark Seibertc VBW, Moritz Schell, Wien, 2012
——ミュージカル俳優になるきっかけを教えてください。
ミュージカルの世界に入るまでは決してストレートではなく、ちょっと廻り道をしておりました。ドイツで高校を卒業して経済の勉強をしている時、クリエイティビティが足りないと感じて、自分の好きなミュージカルを勉強したいと思うようになりました。複数の大学に合格。そこからウィーンを選び、ミュージカルの勉強をしました。ウィーンは音楽、そしてミュージカルの長い歴史のある街ですから、ミュージカルを目指すにはいいのではないかと。そのまま、この道を歩んできましたね。
——なぜミュージカルをやりたいと思ったのですか。
父、母、兄2人と、ミュージカル好きな家族の中で育ったんです。『オペラ座の怪人』『ヴァンパイア』『ジーザス・クライスト=スーパースター』『スターライト・エクスプレス』など観に行きましたね。『スターライト・エクスプレス』はローラースケートで走り回る様子が子供にはすごくエキサイティングで楽しかったことを今でも覚えています。こうしてミュージカル俳優になって、家族はすごく喜んでいます。今もしょっちゅう観に来てくれるんですよ。
——家族でミュージカルを観に行くのは、ドイツでは普通のこと?
ドイツでは主催者が意識して、家族層をターゲットにしていると思います。ミュージカルの長所は年齢性別に関係なく、子供から大人、高齢者まで楽しめる要素がたくさんあること。家族で観に行くことが多いです。
——初めて出演したミュージカルが『バーバレラ』。これはかなりアバンギャルドな作品で、マーク・フィッシャーの美術が衝撃的でしたね。
『バーバレラ』で役をいただいた時、私はまだ学生でウィーンのコンセルに在学中でした。ウィーン劇場連盟主催のものでしたから、これは自分にとって大きなチャンス。ミュージカル界への入場券だったといえるでしょう。残念ながら作品はあまりヒットしなかったのですが、この出演をきっかけに『ロミオとジュリエット』が決まったので、私にとっては大切な作品です。
おっしゃるとおり、衣裳も素晴らしかったし、大変勇気あるプロダクションだったと思います。舞台装置や衣裳に比べると、ストーリーに少し力がなかったかな。それでもウィーン劇場連盟としては、時にはリスク覚悟で新しいものにチャレンジする姿勢が必要だと思う。そういったチャレンジのひとつだったと感じます。
——その後、『フットルース』『ロミオとジュリエット』と続き、ロミジュリのティボルト役でついにブレイク!
ロミジュリはフランスからの演出チームがとても厳しくて、実にハードでした。しかしハードなほうが時間が経つといい思い出として残るもので、今ではとてもいい経験に感じられます。
——ちょっといじわるな質問ですが、ほんとはロミオが演じたかった?
最初から自分はロミオのタイプではないな、と思ってました。当時からルカス・ペルマンがロミオの最有力候補でしたしね。オーディションのファイナルではロミオとティボルト両方歌うように言われましたが、ティボルトに決まってよかったと思っています。ティボルトは悪役になるだけの理由を持っている男で、それを見せられる場面が随所にあり、表現しがいがありますから。
——ティボルトとロミオは月と太陽みたいな関係で、対峙していますね。
ロミジュリの素晴らしくロマンチックな世界を引き立たせてるのが、ティボルトの存在だといえるでしょう。もしティボルトがいなかったら、幕が開いて30分後には相当つまらない作品になっていると思います(笑)。ティボルトとロミオはお互いに補完し合う関係性だと思います。太陽と月、光と影、善と悪、両者があるからこそ、ロミオが際立つ。
——日本版『ロミオ&ジュリエット』では城田優さんが、ロミオとティボルト両方を演じられますが、それを聞いていかがでしたか。
ウィーンではひとりの役者が2役を演じるのはまずないことです。キャスティングをする時には、その役者のタイプで決めるので。きっと日本ではとても人気のある優れた役者さんなら、その方をたくさん出したいという意図が背景にあるのかな、と。それとは別に、城田さんにお目にかかりましたが、とてもいい役者さんです。彼にとって素晴らしいチャレンジになるはずですし、彼なら絶対に両方の役をやり遂げると思います。
韓国のミュージカル女優オク・ジュヒョンさんも週末、日替わりで『レベッカ』のダンバース夫人とエリザベートを演じていると聞いて、すごくビックリしました。ドイツやウィーンでは、これほど違う役を日替わりで同時進行するなんて考えられません。それだけ日本や韓国では、人気のある優れた役者さんはお客さんからの要望もあるのでしょう。それはそれで素晴らしいことです。
——日本版『ロミオ&ジュリエット』の印象は?スマートホンで連絡をとったり、神父様がアロマテラピーをやっていたり、なかなか斬新です。
ロミジュリはフランス発のミュージカルですけど、日本流に演出し直して、日本の観客の好みに合わせた日本バージョンを成功させているのはすごいですね。私は基本的に『ジーザス・クライスト=スーパースター』のようにオリジナルに近い演出がとても好きなんですけど、作品本来の持ち味を邪魔しない、あるいは作品の理解をより深めるためのものであれば、置き換え演出も面白いですよね。
——今までのキャリアでは、ロック系の作品が多いのはなぜ?
偶然です。これまでコメディ、シリアス、ロックといろんなタイプの優れた作品に恵まれたことは、自分自身の成長のためによかったですし、多様性はこれからも大切にしていきたい。私は8年も9年も同じ役を続けるというのはちょっとイメージできないタイプなので、これからもいろんな役に挑戦していきたいですね。
——日本では大学でミュージカルを学ぶ人が増えているのですが、圧倒的に女の子が多いそうなんですね。男の子はむしろ歌手になりたがる傾向があるような。
ドイツ語圏でもミュージカルを目指して学校に通っているのは女性のほうが多いです。でも結局、ミュージカル役者を職業にしようと決意するのは、かなりレベルが高くないと難しい。学校では女性が多くても、ある一定のレベルを越えると大体男女差のバランスがとれてくる印象です。
すぐれたお手本がいるかどうか。それが大事だと思うんです。10代の男の子が観て憧れ、ああいうミュージカルスターになりたいと思わせてくれるような存在が。その点、城田優さんはいいお手本のひとりでしょうね。
——オフの日は何していますか?
スポーツが大好きです。仕事のために鍛えるというのもありますが、体を動かすこと自体が好き。そして読書。映画館やいろんな劇場に足を運ぶことも。旅行して、世界のいろんな文化に触れることも、エネルギーになります。
ウィーンは走るのにいい環境なので、しょっちゅう走っています。東京でも走りたいな。ただ迷子になって帰ってこられないと困るから、ジムで走っていたほうがいいのかな?
——皇居の周りに人気のコースがありますよ。
1周ちょうど5キロで信号がないんですよね?移動のタクシーの中からチェックしました。皇居では2周走ることを目標にしたいと思います(笑)。
【公演情報】
『ウィーン・ミュージカル・コンサート2』
7月20~22日 東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
チケットはこちらから。