この話はとても根深い問題で、不動産投資を行うに当たっても避けて通れない問題です。
以前勤めていた会社で、ある大学の学生さん向けワンルームマンション事業(全戸で222戸))を行っていたのですが・・・とくに入学と卒業、つまり入居と退去のときに「礼金をいただくことの是非」、「敷金返還の問題点」はよくお客様から問い合わせを頂き、この対応だけで4月を終えてしまった・・・と言うこともありました。
さて、本題に入りましょう。
敷金とは
敷金とは・・・ |
敷金の交付の目的は、賃借人が借りた家屋を明け渡すまでに生じた賃貸人に対する一切の債権を担保することです。つまり、敷金は、賃借人からの支払いを確保するための担保といった意味合いを含んでおり、家賃の前払的な性格を有しているということです。
ですから、家賃の支払いが滞ったり、自然の消耗以外に壁や床に大きな損傷を与えてしまった場合などは、滞納家賃・修繕費用が敷金から差し引かれることになります。
賃借人が退去時に、未払い賃料もなく、通常の住まい方・使い方をして普通の状態で家屋を返還すれば、それ以上に家屋を修復する義務はないので、借家契約終了時に敷金は賃借人に返金されます。
しかし、この敷金返還をめぐり、賃貸人と賃借人の敷金に対する見解のずれ、どこまでを通常の住まい方から生じる汚れとするか双方の考えの違いから、賃貸人と賃借人の対立が起こりやすくなっています。
原状回復義務
一般的に、賃貸借契約書の中に、「貸室明け渡し後の室内建具・襖・壁紙等の破損、汚れは一切賃借人の負担において原状に回復する」、「賃借人は、自己の費用をもって原状回復の処置をとって賃貸人に対し明け渡す」といった原状回復義務を負う特約が盛り込まれています。もう少し原状回復義務を具体的に説明することにしましょう。
原状回復義務とは、賃借人の居住・使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反(「善良なる管理者の注意義務」の略で、賃借人は賃貸人に対し、賃借物を明け渡すまで、善良な管理者の注意をもってその賃借物を保管しなければならない。という義務を指します。)、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等に関しては、賃借人が復旧する義務を負わなければいけないということです。
また、家賃の中には、賃借人が通常に使用していた場合の汚れに対する価値の低下分や、年月が経ることによる経年劣化を含めていると一般的に解釈されているので、賃借人は通常でない使用による損耗などの費用に限って負担すると解されています。
これらのことから、賃借人、賃貸人のどちらが修繕費用を負担しなくてはならないかどうかは、通常の使用状態か否かの判断にかかってくるのです。
敷金返還に係るトラブルの増加から、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について国土交通省から平成10年3月に公表された、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、自然損耗、通常の使用による損耗等とみなされ、賃借人が修繕費用の負担しなくてもいいと言われているものは、
・日照りによる畳や壁の変色
・冷蔵庫等の電化製品設置から生ずる後部壁の黒ずみ(いわゆる電気焼け)
・家具などの設置から生じる畳のへこみ
また、賃借人が修繕費用の負担しなくてはいけないと言われているものは、
・引越し作業の際に生じた壁や床への傷
・飲食物をこぼしたため生じたカーペットのしみやカビ(食べこぼし・飲みこぼしは通常の生活で起こることですが、その後の手入れ不足から生じたしみやカビは賃借人の責任と判断されます。)
などとなっています。
賃借人・賃貸人共にお互いの主張はあるかと思いますが、感情論ではなく、円滑な話し合いによりに解決・和解するためには、やはり敷金に関する基本的な知識を双方が身につけることが不可欠となるのではないでしょうか。
敷金と滞納家賃に関する豆知識
賃借人が賃料の支払いを怠ったときは、賃貸人は、賃貸借の存続中であっても、敷金を賃料の支払いに充当することができますが、賃借人側から敷金を充当するよう主張することはできないことになっています。敷金は未払い家賃の担保とは言え、賃借人はそこから今月の家賃を払って欲しいとは主張できません。敷金は、賃貸借契約が終了後、家屋を明け渡した時点で返還される金銭であることをお忘れなく。
では、ここからは少しですが礼金のお話に入ります。
礼金も、不動産の賃貸借契約に際して、賃借人から賃貸人に支払われる一時金の一種です。「住宅を貸してくれてありがとう」といった謝礼を名目とした金銭であるため、通常、賃貸人に返還義務が生じないものとなっています。最近、若年層を意識した賃貸住宅などでは、賃借人獲得のため旧弊な制度を廃止し、礼金をゼロにするケースも見られるようになってきています。
兎にも角にも、敷金・礼金に関するトラブルを少しでも軽減するためには、基本的な知識を身に付けると共に、契約時には賃貸借契約書をよく読み、事前に特約等の内容を十分に確認することが必要です。わからないことはそのままにしない姿勢が最終的には自分を守るのです。