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SPCを含めた不動産の証券化の問題点

今年4月に不動産の証券化に関するトラブルが発生しましたが、SPCを含め、現時点で問題点はないのでしょうか?その点について考えてみたいと思います。

佐藤 益弘

執筆者:佐藤 益弘

不動産にまつわるお金ガイド

今年4月に不動産の証券化に関するトラブルが発生しましたが、SPCを含め、現時点で問題点はないのでしょうか?その点について考えてみたいと思います。

大丈夫か?情報開示!

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大丈夫か?情報開示!
不動産の証券化が、いよいよ日本でも開始されるといった際に問題になったのが情報開示です。そして、以前よりも日本は情報開示が進んだとはいえ、収益還元法を求める際のベースとなる賃料の正確なデータを入手することは難しいといえます。

日本では募集賃料と成約賃料、新規賃料と継続賃料の乖離があるためです。あくまで参考ですし、やや古いデータになりますが、みずほ証券 Real Estate Market Report 2003.11.号によると、東京圏の2003年前半のオフィスビルでの募集賃料平均と実際の成約賃料は13.7%の乖離率となっており、敷金保証金は募集時と実際の成約では乖離率が27.0%もありました。

最近は、東京圏の空室率の低下により、募集賃料と成約賃料の乖離幅は大幅に縮小していますが、大幅に縮小したとはいえ、正確な賃料のデータを入手できなければ、収益還元法で求められた価格の信頼性は、根底からくつがえってしまいます。

超低金利が証券化を後押し!

ここまで、不動産の証券化が発展した理由として、ここ数年、日本では史上稀に見る超低金利だったことが挙げられます。

これは、借入金を利用することによりレバレッジ効果を上げやすかったことと、機関投資家や個人投資家にとって証券化商品の投資利回りが非常に魅力を持ったというダブルの効果をもたらしましたが、今後、長い目で見た場合、日本は金利の上昇が予想されています。

これにより、ダブルの効果がなくなるだけでなく、金利の上昇でこの勢いがなくなるかもしれません。そして、勢いがなくなった時点で、色々な問題点が表に出てくる……といったことは良くある話です。

日本でエンロン事件は起こるのか?

不動産の証券化が発展し、多数のSPCが設立されていますが、果たしてSPCはどこにあるのでしょうか?SPCは、小売店等とは違いビルに看板を出して目に留めてもらおうといった業種ではないですから、私たちにとって、非常に中身の見えにくいものだと思います。

そして、数年前にアメリカでエンロンといった大規模なエネルギー会社が破たんし、日本でも、MMFといった安全、確実であると言われていた金融商品が元本割れを起こすなど、世界的に問題になった「エンロン事件」があります。これは、本来連結すべきSPCを意図的に連結決算から除外して、多額の負債や損失を簿外処理するといった不正経理があったと言われています。

このような事件が日本で起きないとは限りません。このエンロン事件の後に、日本会計士協会が、日本における特別目的会社(SPC)の会計処理等について調査を行っています。

この調査資料につきましては、公表から約4年も経過しているため、調査内容に関しましては割愛させていただきますが、この調査資料の中で気になった点として、「海外の慈善信託(チャリタブルトラスト)を利用したり、ケイマンにSPCを設立したりするケースが非常に多いが、損失等をオフバランスするといった特別の意図で行われるケースが皆無とは断定できないので、このようなスキームにおいては、留意して監査をする必要があるのではないか?」といったような内容が記載されている点です。(「特別目的会社(SPC) に関する調査結果報告」日本公認会計士協会より一部引用)

そして、この調査資料では最後に下記の文章で締めくくっています。個人的に目を引きましたのでご紹介します。

「最後に、今回の調査対象は、新聞等において公になったSPCについてのみを調査対象としたが、SPC利用の実態をより明らかにするとの観点からは、むしろ公になっていないSPCに関して監査人から回答を求めるのが有用である。」(「特別目的会社(SPC) に関する調査結果報告」日本公認会計士協会より引用)

また、調査結果を報告する書面では下記の文章が掲載されています。こちらも個人的に目を引きましたのでご紹介します。

「今回、調査した範囲では特に検討を要すると思われるものは見当たらなかったが、財務諸表利用者に有用な情報を与えるという目的では、SPCに関する開示を充実する必要があると思われる。」(特別目的会社(SPC)に関する調査結果について:日本公認会計士協会より引用)

この2つの文章からは、この時点ではSPCはまだまだブラックボックスの中にあるといった
意味合いが含まれていると思われます。そして、この報告書から約4年が経過していますが、
これが改善されたという情報は入ってきません。

それよりも、不動産の証券化の勢いがまだまだ衰えていないといったニュースが大勢を占めています。日本では何の問題もなく発展し続けているのであればいいのですが、もし、何らかの問題を抱えているのであれば、早急に対処しなければなりません。

さらに、今のSPCが、制度上等すべての面において何ら問題ない場合でも、急速に発展することによって歪が生じてくることはよくあります。

今回の記事の内容は、単なる杞憂であればいいのですが……

今後、資産(不動産)の証券化とともにSPCも問題なく発展を遂げ行ってほしいものです。

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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