現在、大人の方は青年期に自分はいったい何者なのかと思い悩んだ事を覚えていらっしゃいますか?
今回は、エリクソンが提唱した、人の心理社会的発達に関する著名な理論の中から、人はその人生の折々で、いかなる発達課題をこなす事になっているのか、また、そこでいったんつまずくと、その後、どのような心理的問題が生じやすくなるのか、そして場合によっては、それが心の病気につながってしまう可能性もある事を、前回、取り上げました児童期の次の段階である青年期を重点的に解説いたします。
青年期における心理社会的発達の意義
今回、取り上げる青年期は、時期的には13歳くらいから21歳くらいまでで、エリクソンが提唱した、人の心理社会的発達における8つの発達段階のうち、第5段階になります。この時期に対応する2つの心理的側面は「同一性」と、それと対の関係をなす「同一性拡散」となっています。青年期の始まりは第二次性徴とも重なり、男性なら男性らしい、女性なら女性らしい肉体にはっきり変化していく時期。この時期、自分は他人の目にどう映っているのか、あるいは他人から、いったいどう思われているのかが気になりやすく、青年期は自分という、この世の存在をはっきり意識し始める時期。
この青年期における最大の発達課題はエリクソンによれば、自分というアイデンティティの基盤をしっかり固める事。もしも、この時期、何らかのつまずきのため、アイデンティティの基盤がしっかり形成されなければ、エリクソンによれば、自分はいったい何者なのかというアイデンティティの混乱から精神的に不安定になってしまい、場合によっては、心の葛藤が深刻化して、心の病気につながってしまう可能性もあります。
青年期に関連する心の病気
エリクソンによれば、青年期の発達課題に、もしも、つまずいてしまった場合、自分は何者であるのかというアイデンティティの混乱から、様々な問題が生じてくるとしています。例えば、自分の家が自分本来の居場所だと感じられなくなってしまい、家出してしまう。あるいは、不良グループに入ってしまい、仲間同士の関係に自分が流されていくうちに、本来の自分を見失ってしまう。また、場合によっては、心の不安定さが大きく高まり、境界性パーソナリティ障害的な症状を発症してしまう場合もあります。さらに、もしも性的アイデンティティが混乱している場合は、性同一性障害につながってしまう可能性も出てきます。
青年期を無事、乗り越えていくためのヒント
青年期は一般に人生で最も多感な時期。現在、頭に白いものが多々、混じるようになってしまった方でも、10代の子供たちの楽しそうな姿を見れば、「ああ、オレにも昔、あんな頃があったな」と、ちょっと、しんみりする事もあるかも。実際、青年期の子供たちは、みな自分なりに一生懸命。ただ、この時期には、この時期特有の発達課題があるという事は、はっきり意識しておきたい事だと思います。自分はいったい何者なのかという問いに、はっきり答えを出せるようになると言えば、いささか哲学的な難問になってしまうかも知れませんがが、社会における自分の役割を、これから見出して行くのだという事を、しっかり意識しておく事は、10代の子供たちが持つ大きなエネルギーの向かうべき先が現われる手助けになると思います。青年期は自分の属するグループの影響を特に受けやすい時期である事は、親御さんも要注意。青年期の子供は、たとえ見かけは大人のようでも、まだまだ心は大人の成熟さからは、ほど遠いもの。何でも自己責任とは言えない面もあり、もしも、子供が明らかに望ましくないグループに入っているような場合、そのグループから子供が抜け出すためには、親御さんの力がどうしても必要になる場合もあるでしょう。また、親御さんが子供の将来に関して自分の価値観を押し付けてしまうと、時には大変なNGになってしまいます.。時代の動きには大人以上に青年期の多感な子供の方が敏感かつ正確である場合もあります。親御さんは、子供がアイデンティティを確立させていく手助けは出来ても、それを達成するのは、やはり子供に任せるしかないという事は、時に意識しておいた方が良い場合もあると思います。
また、場合によっては「勉強が大変苦手」あるいは「容姿を他人からちょっと、からかわれてしまう」といった事から、劣等感が強まってしまい、仲間うちにも入れず、心に悩みを抱え込んでしまう場合もあると思います。もしも、その苦しみが頭から離れず、こなさなくてはいけない勉学に打ち込めなくなるなど、弊害が深刻化しているような場合、カウンセリングルームでカウンセリングを受けて、専門家に悩みを話してみる事なども人生をよりポジティブな方向に向ける手助けになり得る事は、是非、親御さんもご留意して頂きたいです。
ところで、エリクソンはユダヤ人の家庭で育ち、子供時代、北欧系の外見から、ユダヤ人の子供たちからは仲間扱いされず、学校に上がったあとは、ドイツ人の同級生からやユダヤ人と見なされていたため、自らのアイデンティティに悩んでいた時期がありました。それこそがエリクソンを発達心理学の道に進ませる原動力だと言われていますが、エリクソンによれば、青年期は誰でも自分自身に思い悩む頃であり、アイデンティティの危機自体は程度の差こそあれ、皆、経験するもの。従って、それから生じる問題行動や精神疾患の病的意義は他の年代と比べれば、さほどでは無いとしています。
実際、10代の頃、いわゆる、やんちゃが過ぎた方でも、月日が流れていくうちに、その面影も無いほど、落ち着いた物腰の大人になられた方も少なくないもの。とはいえ、10代の子供たちにとっては、現実は多感な毎日です。時代は一昔前とはガラリと変わり、将来の見通しが、かつてないほど付きにくい現状では、10代の子供たちが自分のアイデンティティを確立して、社会の中での役割を見出していくためには、周囲の力も、かつてないほど、必要になってきているはずで、こうした事はもはや、私たちみんなで真剣に考えたい問題になってきているのではないでしょうか。