老舗ブランドの矜持が伝わる走行性能の磨きあげ
とどまるところを知らないハイエンドスポーツカーブランドのパワー競争に、“オトナのくさび”を打ち込めるメーカーがあるとすれば、それは今やアストンマーティンしかないんじゃないか……。巨大メーカーの一員ではない、独立メーカーであることによる、しがらみのなさと余裕のなさ、といった+と−が、結果的にいい方に作用して、“ムダな馬力戦争”に終止符を打ってくれればいいのに。ひそかに、そう期待しているのだ。
とはいえ、帰ってきたフラッグシップカーの名はヴァンキッシュ=“征服者”である。600ps、700psといったパワー競争に加担しないとはいうものの、改良型6リッターV12エンジンは573psを発揮。他モデルに比べて搭載位置を低めて運動性能も高めたほか、VHボディ構造はアルミハイブリッド版へと進化をはたし、さらなる軽量化と強靭化を実現した。
つまり、走行性能の磨きあげは、エンジンを筆頭にした全てのパラメータバランスで達成するのだという、老舗スポーツブランドらしい矜持が伝わってくる
これまでになく凝縮感に満ちたライドフィール
軽量アルミ・コンポーネンツをボンドで固定するVH(バーティカル・ホリゾンタル)構造はDBS比でねじれ剛性が25%向上。ボディパネルにはカーボンを採用、スプリッター/サイドスカート/リアデューザーはカーボン素地を活かしボディ下部を囲むようなデザインとされている
試乗車のインテリアは、妖艶と言うべき仕立てであった。最高級のマテリアルを贅沢に使うからこそ成立する、ギリギリの“趣味”である。一歩間違えば悪趣味、といったあたりに真のエレガンスは生まれるものなのだ。
もっとも、DB9以降、特徴的な弧を描いてきたセンターコンソールがすっかりモダンになり、クリスタルキーの差し込み式スターターやボタン式シフトチェンジといった操作様式こそ踏襲するものの、ややチープになった印象は拭いされない。このあたり、既存のアストンマーティンユーザーにどう映っているのか、少し心配な点ではある。
もっとも、そんな見ためのわずかな気がかりなど、クリスタルキーをぐいっと押し込み、少しのタメの後に目覚めたV12エンジンの咆哮を聴いた瞬間に、忘れてしまうことだろう。
否、それでもちょっと意地悪な乗り手は、Dボタンを押すときにまた思い出すじゃないか、と言うかもしれない。けれども、ひとたび走り出し、これまでになく凝縮感に満ちたライドフィールを感じ取った瞬間に、今度こそカンペキに忘れてしまうと思う。