映画『愛の悪魔』は、フランシス・ベーコンの伝記映画というよりも、ジョージ・ダイアーとの(破滅的な)恋、二人の関係性に焦点を当てた作品です。ベーコンのマネージャーだったイザベラが「あなたがジョージを描いた作品には、一筆ごとに優しさがにじみ出てる。まるで愛の詩のようだわ」と語りかけるシーンがとても印象的でした。
最も展覧会を開くのが難しいとされるフランシス・ベーコンの、日本では約30年ぶりで没後初となる大規模な展覧会が、新国立美術館で開催されています。本当に貴重な機会で、これを見逃すと、もうこの先、実物をまとまった形で観ることは難しいと思います(いつ観るの? 今でしょ!って感じです)
今回、All About[同性愛]でフランシス・ベーコンを特集しようと思ったのは、スゴイ画家の展覧会をやっていてたまたま彼がゲイだったから、ということがベースではあるのですが、さらに、そんなスゴイ画家が、まだ同性愛が違法だった時代から堂々とゲイとして生きたということ、そして(まるでピカソのように)生涯にわたって恋をしつづけ、作品にもたくさん恋人を描いた(今回の展覧会にもそんな作品がたくさん展示されている)ということを知っていただきたかったからです。
映画『愛の悪魔』で描かれているように、まだ多くの人が隠れるようにして生きていた、ゲイであることをオープンにして彼氏といっしょに暮らすなんていうことが「おとぎ話」だった時代に、フランシスは「天から降ってきた」イケメン、ジョージ・ダイアーを「つかまえて」恋人にしました(ダイアーはベーコンの家に泥棒に入り、足を滑らせて天井から落ちたのです)。今回の展覧会のポスターになっている作品もジョージ・ダイアーを描いたものです。
世界的な成功を収めていた稀代の芸術家の恋は、一筋縄ではいかないものでした(恋人の悲劇的な死にも直面します。しかも一度ならず)。でも、どんなにスゴイ人だろうと、恋愛の本質みたいなところは変わらないと思います。長年ゲイの恋愛(LOVE&SEX)について書いてきたゴトウにとって、フランシスの恋多き人生は、作品に勝るとも劣らないくらい驚きの宝庫というか、本当に刺激的で興味深いものです。そんな彼の愛と人生、彼の愛した男たちと作品との関わりを中心に、お伝えいたします。
美術にあまり関心がない方も、あの絵はあまり好きじゃないという方も、これを機に少しでも興味を持っていただければ幸いです。