米と雪と酒の聖地、魚沼の蔵「鶴齢」に立つ
雪に青空が生える牧之通り
新潟県南部。苗場、越後湯沢、十日町、六日町といえば、スキー・スノボーファンには聖地と言える場所。また、魚沼といえば米どころの代名詞でもあり、食いしん坊にとっても魅力の地である。ウインタースポーツや米どころの所以は「雪」にある。「雪」はうまい水と酒も造る。この日本有数の豪雪地帯の町、塩沢には「
鶴齢」で知られる青木酒造がある。
この地のシンボルでもある八海山と巻機山(まきはたやま)を臨み、魚野川と登川の合流地で豊かな田園地帯。春夏は清々しい緑、秋は色とりどりの紅葉が楽しめるが、塩沢は雪とともにある冬の町でもある。
青木酒造のエントランス。雁木が雪国らしい
青木酒造を訪ねたのも雪がまだ残る1月。今年はそれでもこの時期雪が少ないほうだという。きれいに整備された「三国海道 塩沢宿 牧之(ぼくし)通り」は、雪よけのアーケードである雁木(がんぎ)が印象的な雪国らしいたたずまいだ。通りに面した青木酒造は創業1717年(享保2年)で300年の歴史をもつ老舗蔵。現在、青木貴史社長は12代目にあたる。
この日案内してくださるのは、酒造り歴21年の今井隆博杜氏と営業担当の越後美人目崎祐子さん。
日本酒好きには見慣れた、印象的なロゴ
「原料米は、越淡麗(コシタンレイと読み、新潟県が研究・開発した山田錦×五百万石の掛け合い米)を使います。すっきり感が出る品種で27gの千粒重です」と今井杜氏。
千粒重とは、米粒1000粒の重さのこと。この重さが重いほど粒が大きい、つまり、酒米としていいという判断になる。ちなみに通常ご飯として食べる米は20~22g程度、最高の酒米と言われる山田錦は28g前後だ。
「鑑評会に出品する酒の使用米は山田錦ばかり。それも磨かないといい味にならない。これだと鶴齢らしい味にならないのです。この越淡麗だとしっかりと味が出るのです」と杜氏。
新潟の酒はご存じ「淡麗辛口水のごとし」であるが、鶴齢は新潟としては味があるタイプで、そこが人気の素でもある。
新潟酒の中では、飲みごたえある味わい
蒸しあがったばかりの酒米、体力がいる仕事
現在生産量は2500石。東京など中央で見かけることが多い印象の鶴齢ブランドだけど、実は7割が県内消費であり、さらにそのうちの5割は南魚沼内の消費だとか。地元に愛される銘柄だとあらためて知った。
重要な作業である米の「蒸し」は和釜を使う。不思議な表現ではあるが「カラッとした蒸し上がり」になるからだ。この釜、最大で1トンの米を一気に蒸せる大きさだ。そのぶん作業は重労働。
酒造りで最も重要な作業が蒸しだ
「精米平均は58%、最高は37%。酒造好適米使用率は68%です」と今井杜氏。
磨きの技術はあるが、やはり比較的飲み応えのある酒造りがモットーだとわかる数字だ。
「仕込み水は13℃。外気と米や水の温度が同じだと米がストレスを感じないのです」とまるでわが子のように醪を眺める。さらに大型の仕込みタンクは、酸化しないようにきっちり蓋をする。細かい心遣いが商品の出来具合を左右する。
製麹機は高性能のコンピューター管理、人間並みのきめ細やかさだ
「新酒鑑評会への出品酒など造るための麹も当社ではハクヨー社製の機械で造ります。この機械は優れたもので、きめ細かい温度管理ができ、理想の麹を造り上げることが出来ます。新潟では当社1社のみが使っており、導入の際はかの名杜氏波瀬庄吉さんに使い方を習いに幾度も静岡まで出向きました」と杜氏。機械を上手に使いこなすのも技である。
仕込みタンクを前に今井杜氏
また、三段仕込みの一番最初である初添えは100%小タンクで行う。丁寧な仕込み仕事の様子がわかるが、人の手がいるところは人が、機械がやれるところは機械が行うという合理的な酒造りの哲学が伝統蔵を支えていることがわかる。