将棋の持ち方や並べ方……将棋の魅力
将棋は場所や天候にも左右されず、手軽にできる知の競技。ちょっとした時間があれば家族や友人と楽しめるし、昼休みのひととき、同僚や上司と盤をはさむのも、いいものだ。子ども同士でも熱戦に夢中になれる。知育にだって、すごく効果的。おおいに脳に汗をかくことを楽しんでいただきたい。将棋には棋道がある
さて、「お茶」に文化としての「茶道」があり、「お花」に「華道」があるように、将棋や囲碁には「棋道(きどう)」と呼ばれるものがある。そこでは、精神修養として培われた将棋の礼儀や作法が重要な位置をしめている。それは謙譲の精神であったり、精神集中のための様式や潔さの体現であったりする。プロ棋士達は、棋道の継承者であり、実践者でもあるのだ。「道」とまでいかずとも、私たちだって一般的な将棋のマナーと作法を知っておけば、「楽しみの将棋」を「たしなみの将棋」にグレードアップできる。少しかしこまった対局もできるし、海外の人達に将棋という文化を紹介する場合にだって役に立つ。それに、各地で行われている将棋大会に参加することだってできるのだ。そこで、今回はマナーと作法についてガイドしますぞ。
将棋には審判がいない
マナーの第一は、まず、あいさつ。これは、どんな競技でも同様だろう。ただ、他の多くの競技と違い、将棋には審判がいない。 意外かも知れないが、プレーヤー同士の誠意とプライドが、その役割を果たすのだ。だから、対局開始の号令をかけてくれる人がいない。そこで、対局者二人が席に着いたら、姿勢を正して「よろしくお願いします」とお互いに頭をさげる。これが、始まりの合図になる。畳の場合は、正座で行う。その後は足をくずしてもかまわないが、一言「失礼します」と断ろう。最終的な勝敗の判定をするのも自分たちだ。自分の負けだと判断した人が「負けました」と宣言し、自ら頭を下げる。これを投了という。投了を受けた人も「ありがとうございました」と頭を下げる。審判がいない勝負。「プレイボール」も「レッドカード」も「ゲームセット」もない。これが将棋の特異性であり、だからこそマナーや作法が独特の「文化」として発展してきたのだ。
駒の並べ方にも作法がある
駒の並べ方には「大橋流」と「伊藤流」という、愛棋家にとって有名な2つの作法がある。両流派とも、江戸時代の将棋家元だ。どちらにも、駒を並べる間に呼吸を整え、精神を統一していこうという狙いがある。もちろん、両方を覚える必要はない。どちらかの流儀を覚えておけば、十分だ。ちなみに、大橋流は覚えやすいためか、多くの人が採用している並べ方。それでは、並べ方の解説に移っていこう。「玉将」と「王将」の違いを知っておこう
駒を盤の上に出し、まず「玉将(王将)」を自陣下段の中心に置く。 ルール編でも少しふれたが「玉将」と「王将」の2種類が用意されている場合がある。どちらも役割は一緒だが、棋力の上位者が、まず「王」を取ることになっている。下位者は「玉」だ。お互いの棋力がわからない場合は、年長者が「王」。年齢も、わからない場合は、とにかく自分が「玉」を取っておけば、失礼はない。「玉」と「王」、どちらでも良さそうなものだが、こういう拘(こだわ)りが将棋文化の面白みの一つだと理解してほしい。
「真ん中→左→右」とならべるのが大橋流
上の画像を参考にしてほしい。数字はその駒を並べていく順番を表している。前述のようにまず、「王(玉)」。その次は「金」を「王」の左に置く。その後「金」を「王」の右に並べる。次は「銀」だが、これも左が先で、次に右に「銀」を置く。このように、同じ駒を左→右と置いていくのだ。一番下の段がおわったら、次は「角」と「飛」。これも、まず、左に「角」、そして右に「飛」の順で並べる。そして、いよいよ「歩」。まずは真ん中に置く。そして、左→右とすすめ、20番目の「歩」で終わる。これが「大橋流」だ。
「香」「角」「飛」を後回しにする伊藤流
「伊藤流」も紹介しておこう。画像を参照していただきたい。出だしは大橋流と同じだが、「香」「角」「飛」をとばして、「歩」に移る。「歩」は左端から置いていき、その後、「香」「角」「飛」で終わる。なぜ、この3種類の駒を「歩」の後に並べるのか?それは、この3種の駒が、「歩」がなければ、いきなり、敵陣に突入できる駒だからだ。戦う前に相手を脅かすようなことはしませんよ、という意思表示だと言われている。
大橋流も伊藤流も、ゆっくり、ゆっくり、ピシリと置いていくのがコツ。「駒の乱れは心の乱れ」という将棋格言もある。マスの中にきちんと並べていこう。この間合いが大切であり、徐々に精神を集中させていくプロセスとなるのだ。
対局は振り駒からスタートする
あいさつを終え、駒を並べたら、振り駒で先手後手を決める。振り駒とは以下のようなシステムのことを言う。- 上位者、または年長者が、自陣の「歩」を5枚取る。
- 両手でよく振り、盤上かテーブルの上などに、静かに落とす。
- もし、「歩」が多ければ、振り駒をした人が先手、「と」が多ければ、逆となる。ただし、重なったり立ったりした駒は数えない。
画像の場合は、「と」が多いので、振り駒をした方が後手になる。
将棋の駒の持ち方は、2本の指で挟むように持つ
「たしなみの将棋」にふさわしい持ち方がある。画像をよくご覧頂きたい。 まず、3本の指で軽く持ち上げる。すっと持ち上げるのが肝心だ。 そして、人差し指と中指ではさむように持ち替え、ピシリと盤に打ち込むように置く。この時、あまり強く打ち込まないことがコツだ。何事もそうだが、力んではいけない。最初は難しく感じるかも知れないが、慣れればすばらしい駒音がするようになる。
取った駒はきちんと並べる
相手の駒を取る手を指す場合は、まず、盤面から相手の駒を取り、そして、自分の駒をそのマスに動かす。取った駒は、相手が見やすいように、盤外の右側に置く。 裏返しておいたり、重ねて置いたりしてはいけない。また、自分の手の中に握ったままなんてことは厳禁だ。もし駒台が用意されていれば、その上に並べておく。きちんと並べることは、相手への配慮になるとともに、自分の頭の中を整理し、作戦を組み立てていくのにも役立つ。ここでも、駒の乱れは心の乱れなのだ。参考までに、画像は、あるアマ強豪に対局中の駒台を再現してもらったものだ。「王手」は言わないのがマナー
これは、意外に思われる方がいるかも知れない。「王手」を言うのが当たり前、言わないのは卑怯だと思っている人もいるだろう。その考え方もよくわかる。しかし、将棋では「指す行為そのものが会話」という考え方がある。つまり、対局に言葉はいらないということだ。だから、声を出すことがマナー違反とされる。声だけではない。相手への思考を妨害しないよう、お互いに静かな対局を心がけることが求められるのだ。その原則に従って、「王手」も言わないことがマナー。
その他のマナー
その他にもマナーはある。- 駒を取るとき以外は、相手の駒にさわってはいけない。
- 「待った」はしない。
- 駒から指を離したら、指し直さない。
- 大会などで対局時計を使う場合は、指した手で時計のボタンを軽く押す。
マナーや作法を楽しんでみよう
意外なマナーや作法があっただろう。面倒だなと思った方もいるかも知れない。しかし、一歩進んで、マナーや作法を楽しんでみてはいかがだろうか?きっと、将棋の持つ文化としての一面を味合うことができるだろう。もう、あなたは、「たしなみの将棋」の扉を開けたのだ。【関連記事】