出産はゴールではない
出産したその日から始まる、赤ちゃんとの暮らし
出産という目の前の大仕事に意識を向けるのは当然ですが、出産はゴールではなく、むしろ始まり。身体が大きくダメージを受けた状態で、すぐに育児が始まります。「妊娠中から知っていたら……」とならないためにも、そして、最適な形で赤ちゃんとの新しい生活を歩めるよう、出産直後の時期についてお伝えします。
出産直後の母親にはどんな変化が?
出産直後の母親にはどんな変化が訪れているのか、「身体」「心」「生活」の3点から見てみましょう。■身体
身重から身軽に!と思いがちですが、赤ちゃんや胎盤が出たあとの母体は、相当なダメージを受けています。骨盤は緩み、身体のあちこちが痛む。体内からの出血も当分続きます。私自身、身体を起こすだけでもしんどく、フラフラでした。
■心
ワケもなくイライラ、メソメソ。または気分がハイに。出産により身体の中のホルモンバランスが急激に変化し、精神的にも不安定になるのが産後です。母乳のこと、赤ちゃんのこと、周囲の態度などに一喜一憂しがち。この時期における気持ちのアップダウンは、全く特別なことではありません。また、これってうつ?と思った時は、「マタニティーブルーズ」といわれる多くの母親が経験するものと、診療が必要な「産後うつ」の違いを知っておくことも大切です。(※参考記事「産後うつとマタニティーブルーズ」)
■生活
心身が安定しない状態で、赤ちゃんとの生活が始まります。数時間おきに授乳、おむつ替え、抱っこなどが続く初期の育児は、まさに24時間体制。寝不足の上、赤ちゃんが泣きやまなかったりすると、ふにゃふにゃの我が子を前に途方に暮れることも。さらに、出産直後は赤ちゃんを外に連れ出せないため、急に家に籠もる毎日に。「気分転換の外出もできない」「話し相手がいなくて孤独」「初めての育児がこの方法で良いのか不安」などナーバスになることも多い時期です。
こうして大きな変化が起きる時期に、母親に我慢を強いることは決して望ましくありません。産後うつは1割以上の母親に起こると言われ、児童虐待による死亡例も0歳児が最多。夫婦仲に危機が訪れるとされるタイミングも産後です。赤ちゃんを迎える新生活の第一歩を、当事者である夫婦や周囲がきちんと知り、母親が無理しすぎず心身を回復させられるよう、丁寧に目を向けることが大切です。
産褥期(さんじょくき)の養生はなぜ大事?
「産褥期(さんじょくき)」という言葉を知っていますか。これは、妊娠・出産によって変化した母親の身体が、妊娠前の状態に戻るまでの6~8週間のこと。難しい漢字ですが、「褥」=「布団」の意味。昔から、母親は産後約1ヶ月間は布団を敷きっぱなしにして横になり、身体をしっかり休める必要があると言われてきました。ところが、「出産は病気じゃないし」「私は元気だから大丈夫」と、産後すぐに張り切って動こうとする人もたくさんいるのが実状。かつては親世代から「とにかく安静に」と伝えられていたのに対し、最近は里帰りをしないケースも増え、「産褥期?何のコト?」という声も少なくありません。
一つの大きな区切りである出産を終え、興奮状態の産後。気合いでカバーできる!と過信しがち。でも、早くから無理して動き回ると、やはり心身にガタがくるようです。本人に自覚がなくても、もともと病後に近いようなデリケートな状態。そこに過労が加わることで抵抗力が落ち、緊急入院に……などの話を、しばしば耳にします。個人差があると思われるかもしれませんが、母体が傷ついているのは皆同じ。ダメージが目に見えないため、つい軽視しますが、骨盤まわりの回復や出血が落ち着くのも、産後約1ヶ月といわれます。
今は、血栓症などの問題から、多少は身体を動かすことが望ましいとされるそうですが、それでも絶対に無理は禁物。体力・気力の回復に努めることは、その後の生活や育児につながる、母親の大事な仕事です。また、赤ちゃんは寝ているし、横になってもヒマだから……と携帯やTVが欠かせない人も多いよう。日常生活にスマホとPCが定着している私自身、その気持ちはよく分かりますが、目や神経を使って疲れがたまり、身体の回復が遅れることも。視力が悪くなる場合もあるそうです(※参考記事「産後と視力」)。本当の意味で、しっかり「休む」ことを考えたいものです。
産後の母親はお姫様⁉
オープンで風通しの良い産後の環境作りを!
「産褥期、一人きりで乗り切れると思わない!」ということ、少しは伝わったでしょうか?
それでも、短期間だし我慢、と思ってしまう人もいるかと思います。けれど、赤ちゃんにとって命のはじまりの光景が、母親の泣いている姿というのは悲しい。また、私自身そうでしたが、一人だと深刻に捉えがちなことも、「この泣き声、元気に生まれてきた証拠だね!」などと声をかけてもらうことで、同じ状況も苦と思わなくなり、赤ちゃんにニコニコと笑いかける余裕がうまれるなど、この時期に誰かを頼ることは本当に大切だと感じます。
「子どもは社会の宝」といわれてきましたが、子育てはみんなでするもの、くらいの気持ちで、周囲に協力を求めてみましょう。夫や親など身内で無理をする、というだけではなく、地域、民間サービス、医療従事者など、風通しの良い産後の環境作りができると良いですね。
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