損害区分や二重債務問題の考え方(商品性について)
商品のあり方は、さまざまな視点から検討が必要
したがって、商品性は様々な角度から総合的に検討が進められる必要があります。しかし、現状では震源モデルの改定結果がまだ出ていないことから、報告書においては、見直しの方向性や大枠について示すことにとどめられました。
■損害区分の細分化
現行の地震保険制度では、損害を受けた時の区分は損害に応じ全損(契約金額の100%)・半損(契約金額の50%)・一部損(契約金額の5%)の3つに判定されます。ただし、半損と一部損の区分による保険金の差が大きいとの意見があり、現行の3区分を4区分にするなどの細分化をすべきかどうかが議論されました。
結論としては、細分化により損保会社の損害査定業務が現行制度よりも煩雑となることが予測されること、そのため保険金の支払いが遅れたり、苦情が増える懸念があるなどが挙げられ、慎重であるべきとの意見が多数となりました。
ただ、現行の査定方法の見直しにより、巨大地震下でも査定の迅速性が確保できる前提条件が整うのであれば、細分化の可能性も開けるとしています。
■全損時100%補償オプションの導入検討
長期にわたり多額の住宅ローン返済を負うなど、生活者のリスク状況は地震保険創設時からみれば大きく変化しています。こうした状況が一般化するなか、大震災後の被災者のもっとも深刻な経済的ダメージの1つは、住宅を失ってもその住宅ローンを払い続けなくてはならず、さらに新たな住宅費用が発生する状況でしょう。すなわち、住居費の二重負担問題です。
一方で現行の地震保険制度は、火災保険金額の5割が地震保険金額の上限となっており、もっとも深刻なダメージに必ずしも対応できるわけではありません。
そこで、被災者の生活再建の一助となる地震保険の新たな選択肢として、被災時に深刻なダメージを及ぼす新耐震基準の建物の住宅全損時のみを補償し、受け取る保険金が火災保険と同額の100%となる「付保割合100%全損のみ補償」を、現行商品と併存するオプションとして導入するべきかが検討されました。
このオプションは、火災保険金額と同額の100%の補償をするとはいえ、補償を全損のみに絞るため、制度に対する負荷を抑えることができます。また、新耐震基準で建てられた物件を対象とするため、耐震改修のインセンティブともなり得ます。
さらに生活者の保険料負担を抑えることもできるうえ、従来商品との選択も可能であるため現実的な案といえますが、現行の地震保険制度が十分に理解されていない現状での商品新設は混乱を招くことが予想されます。また、全損に至らない場合には一切保険金が支払われないことを、充分に生活者に理解してもらうことは現状では難しいのではとの意見も出されました。そこで、今後個々の生活者に応じた適切なリスクコンサルティングを行う環境整備を前提として、今後も引き続き検討すべき課題とされました。
■地震団信の創設と地震保険制度のさらなる普及
地震保険は住宅ローン債務者のほぼ唯一のリスクヘッジ手段とはいえ、住宅ローン返済世帯の4割は地震保険には未加入なのが現状です。上記のとおり住居費の二重負担、二重債務問題が深刻化することを回避するため、住宅全壊時に保険金で住宅ローン返済が完済する「地震団信」を地震保険制度の中で創設することも検討されました。
しかしながら、その前提として地震保険の付保割合をまず100%まで引き上げることが必要です。それは前記のように慎重であるべきとされたことから、地震団信の導入にも慎重であるべきとされました。
そもそも、住宅ローンを契約するときに、ローンに伴うリスクを十分に認識せず、地震保険に入っていないことにこうした問題の根幹があるといえます。現行の地震保険制度に加入していれば一定程度のリスク回避が可能であることから、制度の加入推進を進めることがまずは必要であるとされています。そのため金融機関や損害保険会社および宅建業者が連携し、住宅ローン債務者に対し地震保険の加入を促進すべきとしました。
次回は、マンション問題と保険料率について解説します。
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