うさぎと言葉ではなく、目で会話する
私は、仕事柄、初対面のうさぎと、意思疎通をしなければなりません。初めて会ったうさぎが、どのような性格で、何が好きで何が嫌で、どうして欲しいのか……すぐに理解しなければなりません。さらに、私のほうからは、連れてこられたこの場所が、安心できる場所であること、警戒しなくて大丈夫だよ、と信頼の気持ちも伝え、解ってもらわねばなりません。つぶらな瞳はご機嫌な証拠
鳴かないうさぎと、言語は介さなくても、意思のキャッチボールがある。これは、立派な会話だと思うのです。私は、うさぎとの会話は「目」で行います。
うさぎとどうやって「目」で会話するか
物理的には単純です。うさぎの目を見ます。するとたいてい、うさぎのほうも見返してきます。そのとき、目がキラキラしていれば、遊びたいんだな、ワクワクしてるんだな、とわかります。しょんぼり瞼を半分閉じていれば、移動で疲れたか、オーナー(飼い主)さんといっときの別れが寂しいのか、と感じます。具合が悪い時も目で顕著にわかります。私は、お預かりしたうさぎの目を、常に見て、このうさぎは今どんな状態か、を把握するようにしています。
介護が必要なうさぎとの会話
介護が必要な、動けないうさぎにとって、この「目」での会話が、どれだけ役にたったでしょう。以前うちの施設でお預かりした、寝たきりで四肢を全く動かせない状態のうさぎは、ほんの少し開いたまぶたから、漆黒のガラス球のような目で、私の問いかけに応えてくれました。水が飲みたい、お尻が濡れた、など、私の質問に(……うん)(……そうじゃない、眠いの)と答えているような……もちろんこの答えは私の思い込みにほかならないのですが、それでも意思の疎通ができたと感じ、お世話に役立ちました。
うさぎは音声、音で認識している?
うさぎが人間の言葉を理解するかどうか、科学的、学術的なことは申し上げられないですが、日常触れ合っているなかで、人間の言葉を聞き分けているという、確信はかなりあります。ねぇねぇ遊ぼうよ
名前を呼べば、すっ飛んで来ます。しかしそれは、手を叩いて池の鯉に餌をやる時のように、また、過去に美味しいものがもらえた体験がそうさせているのかもしれませんが、どちらにしろ、名前を呼ぶ→嬉しいことがある、と認識すれば、まっすぐ飛んできてくれます。
うちのうさぎは、燕麦(えんばく)が大好きで、いつも「むぎ」と言いながらあげていたので「むぎ」を知っています。「むーぎー!!」と言うと、普段に増してすごいスピードですっ飛んできます。家族との会話のなかで「麦」と言ったら、ぴくっ!と、反応したこともありました。
体の動き、雰囲気
うさぎとの会話は、お互いの体の動きや、人間の声の抑揚、その場の雰囲気なども重要な要素です。嬉しそうに、楽しそうに話しかければ、うさぎにも伝わります。うさぎが嬉しいときは「ひねりジャンプ」をしたり、人の足元をくるくる回って、応えてくれる時があります。
不思議なことに、人間が落ち込んでいたり、悲しい、つらいとき、言葉で言わなくても、伝わってしまうことがあります。心配そうに、顔を覗き込んできます。まるで「大丈夫?」とでも言ってくれているかのよう。空気を読んでくれるのです。
人間と心の会話
不思議なもので、大勢のうさぎを預かっていると、安心して過ごしているうさぎと、まれに、落ち着きがなかったり、食欲がないうさぎがいることがわかりました。それは、オーナー(飼い主)さんが、預ける前に、お泊りの理由をうさぎに「話した」か、「話してない」かの違いでした。それが解ってからは、うさぎたちにオーナーさんの予定を伝え、ちゃんと自宅に帰れること、オーナーさんが迎えに来るまでここで楽しく遊んでいようね、と(バカバカしいとお思いかもしれませんが……)うさぎにきちんと伝えます。それをするようになってからは、不安になるうさぎもなく、皆楽しく過ごすことができるようになりました。
これは過分に、人間が都合のいいように解釈しているだけかもしれません。まして、私は動物の言葉が解るわけではありません。でも、私がうさぎと暮らす中で、これだけの事実はあるのですから、少なくとも私は、うさぎは人間の言葉、心情を繊細に理解する、と思っています。
【関連記事】