宅地建物取引業法詳説〔売買編〕の第17回は、第35条の2(供託所等に関する説明)についてみていくことにしましょう。
(供託所等に関する説明) 第35条の2 宅地建物取引業者は、宅地建物取引業者の相手方等に対して、当該売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、当該宅地建物取引業者が第六十四条の二第一項の規定により指定を受けた一般社団法人の社員でないときは第一号に掲げる事項について、当該宅地建物取引業者が同条同項の規定により指定を受けた一般社団法人の社員であるときは、第六十四条の八第一項の規定により国土交通大臣の指定する弁済業務開始日前においては第一号及び第二号に掲げる事項について、当該弁済業務開始日以後においては第二号に掲げる事項について説明をするようにしなければならない。
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いざというときの連絡先の説明義務
宅地建物取引業法では、それぞれの業者が営業を開始する前に所定の「営業保証金」を供託するか、または保証協会に加入して「弁済業務保証金分担金」を納めることが義務付けられています。※ 「営業保証金」または「弁済業務保証金分担金」について詳しくは≪宅地建物取引業法詳説 〔売買編〕 -10-≫をご参照ください。 |
そして宅地建物取引業者との取引にあたり何らかの損害をこうむった消費者は、この営業保証金の中から損害相当額の還付(弁済)を受けることができるようになっています。
※ 営業保証金の還付について詳しくは≪宅地建物取引業法詳説 〔売買編〕 -11-≫をご参照ください。 |
しかし、単にそれだけでは、実際に損害を受けた消費者がどこに連絡をすれば良いのか分かりません。そこで、「いざというときの連絡先」の説明を義務付けたのが、この第35条の2による規定です。
大半の宅地建物取引業者は、社団法人全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証)または社団法人不動産保証協会(全日保証)のいずれかに加入していますが、この場合には加入している保証協会の名称とその住所、事務所の所在地(地方本部などの住所)、および保証協会が集めた弁済業務保証金を供託した供託所(法務局)の名称とその住所とが説明されます。
一方、いずれの保証協会にも加入せず、供託所へ直接「営業保証金」を供託している宅地建物取引業者の場合には、その供託所の名称と住所が説明されます。
第35条の2の問題点
第35条の2では、契約成立前に供託所等に関する説明をすることを義務付けていますが、その方式については何ら定めていません。そのため、口頭による説明だけで終わったとしても法律上は有効で、説明書面を消費者に渡さなかったとしても、宅地建物取引業法違反となることはありません。ただし、建設省(現国土交通省)による通達や指針などで、供託所等については「重要事項説明書に記載して説明することが望ましい」とされており、実際にはほとんど例外なく、重要事項説明書の一項目として記載されていることでしょう。
しかし、いざというときに消費者が連絡をするべき相手先の説明でありながら、その電話番号は(もちろんメールアドレスも)説明項目にはなっておらず、国土交通省による重要事項説明書の書式例や記載例にも電話番号は含まれていません。「困ったら消費者が自分で調べてくれ」という国の方針のようです。
また、それ以前の問題として「営業保証金の制度がどういうものなのか」「どのような場合に営業保証金の還付請求ができるのか」などについては、消費者に対する説明義務が定められていません。
そのため、重要事項説明をする宅地建物取引主任者は供託所等について書かれている項目を読み上げるだけ。その向かい側で説明を受ける消費者は何のことか分からないまま、ただ「はぁ」と聞いているだけ、というケースが圧倒的に多いように感じられます。
国土交通省の方針に従って重要事項説明書の中に供託所等に関することを記載するよりも、これらの仕組みを解説した(宅地建物取引業者ごとの)パンフレットやプリントを作成して消費者へお渡ししたほうが、よほど親切な対応なのかもしれませんね。
もちろん、説明の仕方云々よりも消費者に損害を与えないことのほうが重要ですが…。
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