こんなにわかりやすい、楽しい蔵見学、あったっだろうか!
蔵の中を案内していただいた。本日の案内役は、常務取締役、高宮直樹氏。笑顔が優しく時折混じる山形弁がなんともチャーミングだ。「まずは、こちら、冷蔵庫。この中は0℃~-10℃の温度管理がされていて、実際にお酒が入っています。お酒は、アルコール度数と同じ数字のマイナス温度で凍るんだそうです。アルコール15%ならマイナス15℃というように。このくらいの冷たい温度で管理しているんですよ」
「私たちは、山形県で作られる県産米を100%使っています。とくに、この場所、北村山地区のものが多いです。鑑評会に出すお酒は山田錦を使用しますが、ほかは地元の酒米、出羽燦燦、出羽の里などを使います」
「私たちは、お米を玄米から精米しています。精米は業者さんにお願いすることもできるのですが、私たちは安心安全を第一に、一から自分たちでやろうという気持ちで精米も行っているんです」
「精米機は3基。基本は70%精米で朝から夕方までかかります。とくに精米歩合の高い大吟醸は40時間から70時間もかかりますが、蔵人は夜も休まず管理しながら行っています」
人が立つといかに大きい機械かがよくわかる。高宮さん、ハイライトの役、ありがとうございます!
ほ~、なるほど、こんな話はどこの精米所に行っても聞けないお話だ。なんだかとてもわかりやすい。
「精米機の大きさは30俵ばり。1俵は60kgなので1800kg入る大きさです。」
実際に大きさがわかるように、高宮さんに精米機の横に立っていただきパチリ。
「はいはい、大きさを比べるためですね。ハイライト(タバコ)の役割ですね~」と軽妙なお答え。
「精米したお米は一ヶ月以上の“からし”をします。これは、米質を安定させたり温度を一定にしたりすることが目的です」 「続いて、私たちが方言で“うるかす”という、米を水につける作業。普通酒は2~6時間、大吟醸酒なら4~6分、気を使いながら手作業で行います。米によっては一晩寝かせることもあります。」
蒸米機の中。するすると軽やかに入ったり出たりする高宮さん。酒造りの様子が手に取るようにわかる
笑いながら説明してくださるが、いかに過酷な作業かは想像に難くない。
「ここは酒母室。酒母とは酵母がたくさん集まったもの。糖分をアルコールに変えてくれる微生物です。お酒の総量の7%が酒母になります」
「仕込みタンクが並んでいます。6トン仕込みタンクが15000本。すごい数ですね」
「お酒ができるまで3週間~4週間かかります」
「絞りはゆっくりと行うので一晩かかります。絞られた残りは酒かすになって別に売られるんです」
このあたりまで来ると、精米から仕込み、絞りまですべての作業を、上層階から下層階にだんだんと無理なく自然に移動しながら作業を行える仕組みになっていることに気がつく。無駄を省き、少人数でも上手に作業が行えるような設計になっているのだ。また、機械に任せられるところは機械化をしているが、重要なポイントはすべて手作業。昔ながらの酒造りの要はやはり人の手が必要であることがよくわかる。
小学生にもわかる!ワクワク蔵見学
本日の見学(取材)は、お酒のことをある程度知っているという条件で、簡単に行っていただいたが、高宮さん、見学の説明がとてもわかりやすくとてもお上手だ。たくさんの観光客が訪れるせいかと思ったが、聞けば「小学生にもわかる蔵見学」がポリシーだとおっしゃる。年に1回、地元の小学3年生を見学に迎えるのだとか。子供たちのピュアな好奇心は、ドキッとするような質問になって帰ってくるという。「米がお酒になることは、ほとんど理解してもらえません。りんごは絞るとジュースになるけど、米を絞ってもジュースにならないのに、どうしてお酒になるのかは、子供たちにはわからないのです」
また、お酒造りには、生き物(微生物)が関係していると説明すると、「へ~、どんな顔してるの?」と聞かれることがあるとか。なるほど、いわれてみれば気になるなぁ。そこで、なんと答えるかは大人の技量というものだろう。
高宮さんは、楽しくなる、ワクワクするような蔵見学を心がけていらっしゃるとか。この感覚は、今の酒類販売にかかわる人たちにもっとも必要な感性ではないだろうか。事実、楽しい蔵見学を終えた後は、ほとんどのお客様が、なるほどと納得しお酒を買っていかれるとか。こういう感性こそ本当に「日本酒ファンを作るセールス方法」というもののように思える。