コルディリェーラの棚田群と持続可能な農業
バナウェのサイドビューポイントから見た棚田群。棚田は岩や石を組み上げて造られているのが一般的だが、バナウェにはこのような泥壁の棚田が多い
バンガアンの棚田群。水田の中央左にあるのが魚の待避所。水田は養殖池も兼ねている
棚田群を支えているのは雄大な山々だ。この山地に東京の1.5~2.0倍もの雨が降り、雨は山の斜面や地下を通って様々なミネラルや有機物、動植物を溶かし込みながら棚田へと流れ着く。
岩や泥でできた棚田の側面には雑草が生い茂り、水中にも様々な魚や昆虫、貝が生き、これらを狙って鳥たちがやってくる。こうした動植物が死んだりフンをすることで天然の肥料がまき散らされて、稲刈りを終えて枯れた棚田を再生する。
棚田を修復するバタッド村の村民。土壌をならし、側面に岩を積み上げていく
一部は畑として利用されており、イモやトマト、タマネギ等が栽培されている。また、棚田の所々に深い穴が掘られているのだが、これは水が干上がったときに魚が逃げ込めるように用意されたもの。棚田は養魚場としても使われているのだ。
さらに、人々が飼っているブタやカモやニワトリが雑草やミミズを食べて農業の手伝いをするだけでなく、人々の食料や貨幣としても利用されている。
世界無形文化遺産「イフガオ族の歌、ハドハド」
なだらかな土地に棚田を組み上げたハパオの棚田群。川をうまく利用している。同じ棚田でも村によってその形は異なる
ヤシを彫って作った豊作の神の彫刻
こうした思想や農業に関する知識は親から子へと口承や歌によって伝えられてきた。その一例がハドハドだ。
ハドハドは田植えや稲刈り、葬式の際に歌われるもので、日本の田楽によく似た民俗芸能だ。伝説や教訓、田植えの方法が歌詞に織り込まれており、民族の知恵をまとめた辞書的な役割も果たしている。ハドハドに込められた物語は200以上に及び、すべてを歌ったら終わるまでに数日を要するといわれるほどだ。
ハドハドは「イフガオ族の歌、ハドハド」として世界無形文化遺産リストに登録されている。