イフガオ族の誇り「フィリピン・コルディリェーラの棚田群」
バンガアンの棚田群。森と水田をつなぎ、山の養分と保水力を利用することで持続可能な農業を実現した。木の遺跡が多いアジアにあって、数少ない大型石造遺跡でもある
今回はその美しさから「天国への階段」の異名を持つフィリピンの世界遺産「フィリピン・コルディリェーラの棚田群」を紹介する。
山と田に抱かれたバタッド村の絶景
バタッドの棚田群。人口1,500人ほどの村には電気もガスも水道もなく、バスが通る道路さえない。先祖代々受け継いできた幸せの形を守るために、人々はこの道を選択した
棚田の曲線と青々とした稲がとても美しい
その第一印象は強烈だ。
四方を山にふさがれたまん中に村があり、ピラミッド型のトンガリ帽子をかぶったかわいらしい家々を青々とした稲穂がぐるりと取り囲んでいる。岩や石を積み重ねて築かれた無数の棚田が山の急斜面を駆け上がり、空へ舞い上がる龍の鱗のように輝いている。なんと美しい!
稲穂の上をトンボやチョウチョが飛び交い、水田ではタニシやメダカ、タガメにタイコウチ、大きな魚だって泳いでいる。小さな頃ずいぶん水田で遊んだけれど、こんなに生き物がたくさんいる田んぼは見たことがない。
バタッド村と「天国への階段」
バタッド村。ピラミッド型・宝形造の建物が食糧庫兼台所。切妻造の建物が住居。トタンは近年使われはじめたもので、使用が問題視されている
棚田と棚田の間に築かれた水路
村に入るとブタやカモやニワトリが家々の庭を走り回り、子供たちがマンゴーの木に登って実を採っている。家の敷地には母屋と並んで高床式の倉庫があって、柱にはネズミ返し。静岡の登呂遺跡で見た弥生時代の高床式倉庫にそっくりだ。
コルディリェーラ山地にイフガオ族がやってきたのは紀元前3世紀より前といわれている。その歴史は登呂遺跡より古い。
この美しい棚田群によって持続可能な農業を実現し、紀元前からいまと変わらぬ生活を2,000年にわたって積み重ねてきた。村民にとって棚田は村の誇りであると同時に、先祖代々伝えられてきた幸せの形なのだ。