切なくて痛い!ヒロインの恋心
ヒロインのアオイ(中山美穂)はパリ在住のフリーペーパーの編集者。彼女には秘密があり、その過去を背負ってパリで暮らしています。仕事に邁進して成功を収めたいと思っているわけでもなく、パリが好きでたまらないわけでもない。居場所が見つからずに背中を丸めている猫のような女性です。そんな彼女のもとに、セン(向井理)が現れます。彼に出逢って、彼女の毎日はキラキラと輝き始めます。でも、その姿がどこか痛々しい……。
アオイは、年下の可愛さと同時にセンの繊細な一面にも触れてときめきます。その気持ちはわかるけれど、彼女がはしゃげばはしゃぐほど、どこかイタイのです。あの美しい中山美穂が演じていても「これはちょっとイタイ女かも」と思わずにいられない……、そこが北川監督のこれまでの脚本との違いかと。
これまでの北川作品では、観客はヒロインといつも同じ目線で、一緒にときめいたり感動したりしていたのに、この『新しい靴を買わなくちゃ』はけっこうスパイスが効いている。ある意味、これまでの北川監督の世界観は崩さないまま、成熟した世界を見せているのです。アオイはおそらくアラフォー世代。そんな年代のヒロインを客観的視線でリアルにあぶりだし、同世代の女性を痛さで泣かせるのです。これはまさに技ありですよ。
スズメ(桐谷美玲)は、これまでの北川脚本のヒロインの年代でしょう。スズメとカンゴ(綾野剛)の恋愛は、もう甘すぎるほどで、若いふたりはとてもスイートな日々を送ります。でも甘ければ甘いほど、ふたりの恋愛が現実的な着地を見せると「そりゃそうだよね」と納得しつつも、その落差がすごいインパクト!
スズメがある決心を胸にパリに来たこと、兄を連れてきた理由が、スズメの成長につながる瞬間を見たとき、北川監督の脚本の巧さにうなりましたよ。また向井理や綾野剛など、旬の若手男優から王子様的な気質を引出す演出も北川監督ならでは! 女性が「こんなことされたらうれしい」というツボをしっかり押さえているのです。
ヒロインに厳しい女性監督たち
パリのロケーションは素敵でアクセサリーのように街はきらめいています。ただ、フランスでなくてはならない理由が見られなかったことが、ちょっと残念かな。アクセサリーとしては抜群に美しく見どころ満載でしたが、フランス人に振り回されるなど、パリにもスパイス効かせてほしかったなぁ……。とはいえ、最近、元気な女性監督の勢いに北川監督も続いています。『ヘルタースケルター』の蜷川実花監督や『夢売るふたり』の西川美和監督など、女性監督はヒロインに厳しい人が多い。北川監督もしかり! そこが男性監督の演出とは違い、実に面白く、本作を見て「また新作が楽しみな女性監督が増えた!」と、うれしい気持ちになりました。
『新しい靴を買わなくちゃ』
2012年10月6日(土)公開
(C)2012「新しい靴を買わなくちゃ」製作委員会
監督&脚本:北川悦吏子
プロデュース:岩井俊二
音楽:坂本龍一
出演:中山美穂、向井理、桐谷美玲、綾野剛、アマンダ・プラマー
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