世界遺産/世界遺産関連ニュース

2012年新登録の世界遺産(3ページ目)

2012年7月、新しい世界遺産26件が誕生し、世界遺産総数は962件となった。事前に不登録が勧告されていたパレスチナの聖誕教会は、アメリカ・イスラエルの反対を押し切って逆転登録。今回はロシアのサンクトペテルブルクで開催された第36回世界遺産委員会の内容をお伝えする。新登録の世界遺産全リスト付き!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

2012年新登録の世界遺産全リスト 前編

イスファハンのマスジット・ジャメ

世界遺産「イスファハンのマスジット・ジャメ」。独特のドームや、庭園を囲んでイーワーン(門、あるいはホール)を配置する様式は、中央アジアやインドに広がるモスクや宮廷建築の規範となった

それでは新登録の世界遺産をすべて紹介しよう。リストはヨーロッパ→アジア→オセアニア→北アメリカ→南アメリカ→アフリカの順番で、大陸内は50音順で表記した。

なお、世界遺産の日本語名はガイドが適当に訳したもので、正式なものではない。世界遺産とは世界遺産リストに記載された物件を示し、そのリストは英語とフランス語で書かれている。リストから抜粋した併記の英語名が正式名称となる。

<文化遺産>

■人類の進化を示すカルメル山の遺跡群:ナハール・マロット/ワディ・エル・ムガラ洞窟
Sites of Human Evolution at Mount Carmel: The Nahal Me'arot / Wadi el-Mughara Caves
イスラエル、文化遺産(iii)(v)
人類がアフリカを出発して最初に通過したといわれる西アジア。カルメル山麓ではネアンデルタール人や私たちとほとんど変わらない現生人類の化石が出土している。これらは人類の進化と同時に採取狩猟生活から農業・畜産に至る文明の歴史を示しており、50万年にわたる人類史の重要な証拠として価値が認められた。複合遺産として申請されたが、文化遺産としての登録となった。

■ヘルシングランドの装飾農場家屋
Decorated Farmhouses of Halsingland
スウェーデン、文化遺産(v)
豊かな林と水に守られたスウェーデンのヘルシングランド地方。この地に暮らす人々は林業によって栄え、その木で大きな家々を造って日々暮らしていた。こうした家屋の内部は木々や花々、キリスト教神話などの美しい絵で彩られており、それら伝統的なデザインがいまに伝えられている。人々は中世から伝わるこうした家並みをいまも大切にしており、このうち7軒が世界遺産に登録された。

■水銀遺産 アルマデンとイドリア
Heritage of Mercury. Almaden and Idrija
スペイン/スロベニア、文化遺産(ii)(iv)
スペインのアルマデンは世界の水銀の1/3を産出した世界最大の水銀鉱山を有する鉱山町。そして第2位がスロベニアのイドリアだ。大航海時代以降、新大陸で金や銀の採掘が活発に進められたが、金・銀鉱石を水銀溶液に溶かして抽出する必要から水銀の需要が急速に伸び、両鉱山町は大いに繁栄した。鉱山はもちろん城砦・教会・住居など中世以来の街並みがよく残されており、その一帯が登録された。

■バイロイトの辺境伯歌劇場
Margravial Opera House Bayreuth
ドイツ、文化遺産(i)(iv)
フリードリヒ3世(ブランデンブルク・バイロイト辺境伯)とその妻ヴィルヘルミーネが建築家ジュセッペ・ガッリ・ビビエーナに命じて建築させたオペラハウス。1750年竣工で500人を収容するこの劇場は、重厚な外観・華麗な装飾・豊かな曲線を多用したバロック建築の傑作だ。16~18世紀にオペラが誕生して市民の間に広まり、各地にオペラハウスが建てられたが、辺境伯歌劇場は当時の姿をもっともよく残している。

■チャタルヒュユクの新石器遺跡
Neolithic Site of Catalhoyuk
トルコ、文化遺産(ii)(iv)
1958年に発見され、かつては人類最古の集落跡といわれた新石器時代の遺跡群。住居はもちろん壁画やレリーフ・彫刻など、紀元前7200~紀元前5200年頃の遺構や遺物が多数発掘されており、新石器時代の暮らしや2,000年にわたる文明の発達の様子を垣間見ることができる。街並みは非常に特徴的で、道路が存在せず、密集した家々の屋根が道路や玄関として利用されていた。

■ノール・パ・ド・カレの鉱山地帯
Nord-Pas de Calais Mining Basin
フランス、文化遺産(ii)(iv)(vi)
18~20世紀にかけて石炭鉱山町として繁栄し、フランスの産業革命以降の繁栄を支えたノール・パ・ド・カレ地方。鉱山を中心としたさまざまな施設が残されており、採鉱坑や工場・採掘池・駅・鉄道・運河・教会・住居・庭園など、109もの施設・設備が登録された。これらの産業遺産は当時の人々の生活を示すだけでなく、技術の進歩をよく保存するものとして価値が認められた。

■ワロン地方の主要な鉱山遺跡
Major Mining Sites of Wallonia
ベルギー、文化遺産(ii)(iv)
イギリスではじまった産業革命はワロン地方で採掘された石炭や鉄鉱石を利用して大陸へと伝えられていく。グラン・オルニュはブルーノ・ルナールがデザインした炭鉱労働者のための街で、産業と日常の暮らしが一体化した産業都市となっている。一方、ボワ・デュ・リュックはヨーロッパでもっとも古い炭鉱で、その歴史は17世紀まで遡る。世界遺産には他にボワ・デュ・カジール、ブレニー鉱山も一緒に登録された。

■防衛線都市エルバスとその防御設備
Garrison Border Town of Elvas and its Fortifications
ポルトガル、文化遺産(iv)
1580年にスペインによって併合されたポルトガルだが、1640年のポルトガル革命と王政復古戦争によってジョアン4世がポルトガル王に即位し、再独立を果たす。スペイン国境から約10kmの位置にあるエルバスにはふたつの要塞と堅牢な城壁が築かれ、ポルトガルの生命線として重要な役割を担った。15世紀に建築がはじまり、全長7kmを誇るアモレイラの水道橋は、いまでも使用されている。

■ゴンバデカーブース
Gonbad-e Qabus
イラン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
ゴンバデカーブースは10~11世紀に栄えたズィヤール朝の首都。中央アジアを代表するイスラム都市として栄えたが、14~15世紀のモンゴル軍の侵略で滅亡した。唯一破壊を免れたのが第4代国王カーブース・ワシュムギールの霊廟で、高さ53mに及ぶ威容と円錐形のユニークなデザインはペルシア・初期イスラム・アジア遊牧民の文化が融合した傑作として知られ、のちのイラン建築に大きな影響を与えた。

■イスファハンのマスジット・ジャメ
Masjed-e Jame of Isfahan
イラン、文化遺産(ii)
ヨーロッパの街の中央に大聖堂があるように、イスラム教の街には金曜日に礼拝を行うために金曜モスク=マスジット・ジャメが建てられている。イスファハンのマスジット・ジャメは841年に建築がはじまり、時代時代に改修・増築が行われたイスファハン最古のモスク。1,000年にわたって増改築を繰り返したために種々の建築様式が混在しており、イスラム建築史を知るうえで非常に重要な資料とされている。

■バリ州の文化的景観:トリ・ヒタ・カラナ哲学の表現としてのスバック・システム
バリの美しいライステラス

バリの美しいライステラス(棚田)。天・地・人の結びつきを尊重し、人同士の和を尊ぶトリ・ヒタ・カラナ哲学の世界観が農作に活かされている

Cultural Landscape of Bali Province: the Subak System as a Manifestation of the Tri Hita Karana Philosophy
インドネシア、文化遺産(ii)(iii)(v)(vi)
2,000年前、水を神として崇めるインドのヒンドゥー哲学の影響を受けて誕生したトリ・ヒタ・カラナ哲学。神・人間・自然の調和を尊重する思想をベースに、水を分かち合い、環境を活かしつつ自分たちをも生かしていくサバックと呼ばれる組合組織が発達した。その精神を表現するウルン・ダヌ・バトゥール寺院やタマン・アユン寺院、プクリサン灌漑設備、カトゥー・アンガ・バトゥカウ灌漑設備などが登録された。

 

■上都遺跡
Site of Xanadu
中国、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
1256年、フビライは北京の北約300kmの地に開平府を設置し、南宋攻撃の指揮を執っていた。その後モンゴル皇帝モンケが死去するとアリクブケと皇帝の座を争い、戦いに勝利してハーンに即位する。1279年、中国をほぼ制圧したフビライは大都(現在の北京)に遷都するが、開平府は上都と改名して夏の首都として使用された。上都にはモンゴル・中国・チベットの文化が融合した独特の宮殿・寺院・墳墓・運河跡が残されている。

■真珠を中心とする島嶼経済の証明
Pearling, testimony of an island economy
バーレーン、文化遺産(iii)(v)
古くから真珠が採れたバーレーンのムハーラク島。やがて貝の養殖技術が確立すると、18~20世紀には真珠を中心とする貿易によって大いに繁栄した。海の生態系を破壊することなく海洋資源を活用するそのシステムは、経済・文化両面から非常に高く評価され、今回の世界遺産登録となった。世界遺産には、当時の様子を伝えるマヘル城砦や商人の店舗・倉庫・モスクなど、計17の施設が登録された。

■イエスの生誕地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路
聖誕教会のエントランス

とても小さい聖誕教会のエントランス。2,000年前、この場所に馬小屋として使われた洞窟があったという

Birthplace of Jesus: Church of the Nativity and the Pilgrimage Route, Bethlehem
パレスチナ、文化遺産(iv)(vi)
聖霊により、処女のまま身ごもった聖母マリア。彼女がイエスを産むと、はるか上空で美しい星がひときわ明るく輝きだし、その星を見た東の国の博士たちは新しい王の誕生を予感して、生まれたばかりの王を見ようとベツレヘムを訪れる。クリスマスの起源であり、ツリーの頂点に輝く「ベツレヘムの星」の由来だ。339年、その場所に最初の教会が建てられ、火災で焼失したのち6世紀に再建されたのが現在の聖誕教会だ。

■レンゴン渓谷の考古遺跡
Archaeological Heritage of the Lenggong Valley
マレーシア、文化遺産(iii)(iv)
レンゴン渓谷の遺跡では、人類200万年にわたる遺物が発掘されている。その期間は1か所からの出土としては世界でも最長級で、アフリカを除けば最古級の遺跡でもある。旧石器・新石器時代のさまざまな石器から青銅器や鉄器まで、人類の進化と文明の発達を知るうえできわめて重要な遺物が多数発見されている。今回は渓谷の4つの遺跡がその価値を認められて世界遺産に登録された。

 
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます