受変電設備を変更すると、電気の管理主体も「電力会社」から「管理組合」へ変わる
発電所からの電気は電線を伝わってマンションにも届けられる。
繰り返しになりますが、マンションなどの大規模建築物は電気を発電所から高圧のまま敷地内に引き込み、次にマンション内にある受変電設備で低圧に引き下げ、最終的に共用部分と専有部分に配電します。この受変電設備は本来、マンション内にあっても地域電力会社の所有(資産)になっており、管理組合は無償で設置スペース(借室電気室)を電力会社に貸しているだけです。電力に関する受電・変圧・配電すべての業務は地域電力会社の一元管理のもと行なわれています。
その受変電設備(電力会社の所有)を取り外し、管理組合名義の新しい設備に取り替えることが「電力会社の所有から管理組合の所有に変更する」ということです。共用部分の変更に該当するため総会決議が必要になりますが、区分所有者の賛同が得られれば受変電設備の変更は可能です。
そして、ここがポイントなのですが、受変電設備の所有者が変わることで、同時に受電・変圧・配電にかかわる業務の主体者も変わります。つまり、変更前は地域電力会社の一元管理のもとで行なわれていたものが、変更後は管理組合の一括管理へと管理の主体が変わります。この点が最大の特徴といえます。
東京電力の電力料金の平均単価 家庭向けは企業向けの「ほぼ1.5倍」の価格差
では、電力の管理主体が変わることで、一体何が変わるのか?―― ここからが核心部分となりますが、大きく2つの変更が実現可能となります。1つが電力需給に関する契約形態の変更。そして、もう1つが利益配分の変更です。通常、一般のマンションでは地域電力会社と各住戸がそれぞれ相対で電気の契約(個別契約)を結んでいますが、管理組合が受変電設備の所有者になることで、マンション1棟での一括契約(大口契約)が可能になります。地域電力会社と管理組合が1対1で契約締結できるようになります。
ここで話が横道に反れますが、5月下旬、経済産業省の審議会によって東京電力の家庭向け電気料金が企業向けより大幅に割高であることが明らかになりました。同社の収益構造を見てみると、販売電力量の比率は「企業などの大口契約」:「個人などの個別契約」=62:38なのに対し、利益は「大口契約」:「個別契約」=9:91となっています。つまり、東電は利益の9割を家庭向けの電気料金で稼いでいるのです。各種報道によると、東電管内の家庭向け料金の平均単価は1キロワット/時あたり23円34銭と、大口利用者(15円04銭)のほぼ1.5倍だそうです。
もうお分かりだと思いますが、この単価の「差」をマンションの電気料金に活かそうというのが契約変更の目的です。まさに“ここ”に契約形態を大口契約に変更する意味があります。後述するように、毎年3割程度の電気料金を削減することができるようになります。今では、こうした業務を代行する専門業者も登場しています。管理組合が専門的な知識を持っていなくても大丈夫です。
年間で「3割前後」の電気代の削減に成功 初期投資費用は「5年程度」で回収可能
そして、もう1つの特徴が利益配分の変更(調整)です。電気料金の削減事業を展開するエクセルイブ(大阪市北区)の尾浦英香社長は次のように説明します。「大口契約の締結によって、受電・変圧・配電にかかわる業務の主体者が管理組合に変わることで、これまで(個別契約)は地域電力会社が行なっていた個別検針や個別請求に関する業務を、今度は管理組合が自ら行わなければなりません。弊社でもこうした業務の代行を行なっていますが、業務主体となった管理組合が電気料金の集金から地域電力会社への料金支払い、さらに集金代行の委託手数料などを自己勘定で決済できるようになることで、すべての収支が一元管理でき、利益の最大化に結びつけることが可能になります。受変電設備を自己所有することで、管理組合が電力受電に関する“元締め”としての役割を担うようになります」
しかし、長所があれば短所もあり、難点として初期投資に一定のまとまった資金が必要になります。上表の右欄にある「工事費」とは、受変電設備や各戸の電気メーターを交換(=自己所有化)するのに要した費用です。イニシャルコストが多額になるため、居住者の合意形成でも高いハードルを乗り越えなければなりません。
ただ、その点に関し、尾浦社長は「年間3割程度の削減額が見込めるので、その差額分を初期投資費用に充当すれば、およそ5年で全額回収が可能」と説明します。「たとえば、東京都中央区のマンションを見てみると、年間の電気料金の削減額は390万円(1350万円-960万円)ですので、工事費1837万円は4年9カ月でペイ(回収)できます」(尾浦社長)。
確かに、将来キャッシュフロー(組合預金の収支)が明確であれば、大金ではあっても高負担といった意識は薄れます。マンションの管理費や大規模修繕工事の削減業務を手がけるシーアイピー(東京都中央区)の須藤桂一社長も「ウルトラCといえる画期的な方法」と太鼓判を押します。
わが国では今後、反原発の流れが強まる中で、電力事情はさらなるひっ迫感を強めることでしょう。すでにドイツやイタリアでは、国策として脱原発の動きを活発化させています。わが国日本も民意は同じ方向に向かっています。その意味では、今夏を乗り切ったとしても抜本的解決にはなりません。直面する電気料金の値上げに対抗する手段として、受変電設備を管理組合の自己所有にする方法は一考に価する施策といえるでしょう。