土地活用のノウハウ/空室対策・賃貸管理・老朽化

老朽化物件の出口戦略(2)  建て替える・買い換える(2ページ目)

建て替えると入居率・家賃アップが見込めますが、建築などの費用負担は大きくなり、いくつかの問題も考えられます。第一に、後継者の同意が得られるか、また賃貸経営に向いているかという点です。第二に、立ち退き交渉です。現在の法律は、入居者保護となっているので、苦労の多い仕事になります。建て替えに成功すると、築年数0の人気物件になり、「賃貸経営のマイナスのスパイラル」を断ち切ることができます。

谷崎 憲一

執筆者:谷崎 憲一

土地活用ガイド

避けて通れない「立ち退き交渉」のこと 

建て替えでは既存の入居者に立ち退きをお願いすることになります。現在の法律では入居者に自主的に退去していただく必要があるため、立ち退き交渉は立ち退き料の支出を伴う苦労の多い仕事となります。

建て替えの問題点は、投資コストが大きくなることです。現在の建物の入居者にまず引っ越しをお願いし、全員に退去してもらった上で工事を始めなくてはなりません。従って新築と異なり、建築費用だけでなく既存の入居者の立ち退き費用、解体費用などをコストとして考える必要があります。

既存の入居者に退去していただくことを、「明け渡し」とか「立ち退き」と呼びます。オーナーさんであればご存知のように、入居者の立ち退きは簡単なことではありません。というのも現在の借地借家法は、「契約期間が満了した際、入居者が契約更新を希望したときは、貸し手が同意しなくても、これまでの契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす」という、入居者にきわめて有利な規定となっているからです。

貸し手が契約更新を拒否するためには「正当事由」が必要となります。正当事由とは長期にわたる家賃滞納、無断改造など、入居者側が行った信頼関係を壊すような義務違反をいいます。入居者側にそういった落ち度がない限り、オーナーさんが「古くなってきたから建て替えたい」と考えたとしても、入居者が「住み続けたい」と主張すれば、出ていってはもらえないのです。

判例では通常の建物の老朽化は、立ち退きを求めるための正当な理由とは認められていません。「建物が老朽化したから、建て替えが必要だ」とオーナーさんが主張しても、入居者の側が「貸し手が本来必要な修繕を怠った」と主張すれば、「貸し手は安全な住居を提供する義務がある」とされ、逆に裁判所から修繕を命じられるかもしれないのです。実際に大改修を求められたケースもあります。

そこで立ち退き交渉では、入居者のみなさんに、オーナーさんの建て替えに協力して、契約更新を求めないようお願いすることになります。自主的に退去していただくために、立ち退き料の提示が必要になってくるわけです。

立ち退き料には相場はありません。

よく「立ち退き料の相場を教えてほしい」という相談があるのですが、それぞれの事例によって金額は全く異なります。立ち退き料には相場はないのです。立ち退き交渉では入居者の個別の事情をよく聞いて、それぞれの要望に合わせて対策していく必要があります。

単に金額の問題だけではありません。立ち退き交渉に失敗し、入居者との関係をこじらせてしまい、どうしても出ていこうとしない入居者1人を残したまま、何年も建て替えることができないというケースも珍しくありません。

入居者は権利を失わないために、住んでいる間は家賃を払い続ける必要があります。といっても1戸分の家賃では、固定資産税など建物の維持管理費用にも足りません。オーナーさんにとっては深刻な事態で、交渉に失敗すれば、それまで収入を生んでいた大切な資産が現金を食い潰す不良資産に変わってしまいかねません。

老朽賃貸住宅のオーナーさんの中には「いずれ取り壊す物件だから」と、相場では月5万円程度の部屋を3万円ほどで安く貸してしまっているケースがあります。「入居中に取り壊しになるのは申し訳ない」というオーナーさんの入居者への配慮なのですが、これは問題の多いやり方です。こうしたケースでは入居者から「今より安い家賃で今より良い物件を見つけてくれるんでしたら、立ち退きに協力しますよ」と言われることがあります。

しかし退去を前提に相場より家賃を安くしているのですから、同じ賃料で同等の条件の部屋など見つかるはずがありません。入居者側はその値段で安く借りていることを、もはや自分の権利だと見なしているのです。

こうしたトラブルになるのを防ぐ意味でも、建て替えや退去の予定があろうとなかろうと、建物の維持管理はしっかりと行い、相場並みの家賃をいただかなくてはいけません。

借地借家法のあまりに入居者有利の規定が、老朽化賃貸住宅の円滑な建て替えを妨げているという観点から、2000年に「定期借家法」という新しい法律が施行されました。「定期借家契約」という、契約で定められた期限が来たら自動的に退去を求められる、新しい契約スタイルが認められたのです。

しかし現在の老朽化した賃貸住宅で入居者と定期借家契約を結んでいるケースはほとんどないのが実状です。入居者が退去するたび、新しく入ってきた入居者との間に定期借家契約を結んでいくという考え方もありますが、全ての入居者が定期借家契約に切り替わるまで待っていたら、建て替えがいつになるかわかりません。

建物の老朽化が進んでいる場合、家賃収入が低下していく一方で修繕費用が嵩んできます。ですから建て替えを前提とするなら、やはり立ち退き交渉を行って早期に立ち退きを完了し、建て替え工事にかかるべきでしょう。

立退料に相場はないと言いましたが、経験的な目安はあります。総賃料の6~10ヵ月の範囲で収まれば、まずは順当といっていいでしょう。ただし立ち退き交渉では早期解決を優先し、必要な費用は惜しまないことがポイントです。ひと月でも早く立ち退きに成功すれば、それだけ建築の開始時期も早まり、収益も早く上がるようになるのです。

更地にするために必要なその他のコストとして、建物の解体費用があります。これもリサイクル法などの影響で、かつてよりだいぶ費用がかかるようになっています。また、建物の地下から処分が必要な不用品が出てくるなど、想定外の費用がかかるケースもあります。建て替えて新たに賃貸事業を始めるのであれば、安易に考えずに必要経費として事業計画に見込まねばなりません。

買い換える 

魅力の買い換え物件

買い換えも一つの選択肢

建物が老朽化してもオーナーさんに賃貸経営を続ける意思がある場合、建て替えるのでも、そのまま続けるのでもなく、「買い換え」することも選択肢の1つです。

老朽化した賃貸物件を手放し、売却額に新たな借り入れを加え、別の賃貸物件を購入すれば、立ち退き交渉などに手間をかけることなく、賃貸経営の新たなスタートを切ることができます。
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