「胃食道逆流症」とは……睡眠時の胸焼けで寝れない・目が覚めるという人も
胃酸が食道を傷めて、ムカツキや胸焼けを起こします
食べすぎたり飲みすぎたりしたときにだけ胸焼けがするくらいなら、あまり心配しなくてもかまいません。しかし、普通に食事したあとすぐに横になっても、胸焼けするようなら、胃酸が逆流しているのかもしれません。
胃と食道の境には下部食道括約筋(かつやくきん)がしっかり働いていて、胃から食道へ胃液が逆流しません。ところが、この筋肉の働きが落ちたり、腹圧が高い状態が続いたりすると、胃液が食道に逆流してしまいます。これが「胃食道逆流症」です。胃酸によって食道の粘膜がただれて、食道炎や食道潰瘍を起こすことがあります。
日本人の4人に1人には胃食道逆流症がある、という報告もあります。また、逆流性食道炎の患者さんも多く、内視鏡で見ると一般人口の8~16%に認められています。
胃液の逆流は眠っている間にも起きることがあり、「胃食道逆流症」と呼ばれています。アメリカで胸焼けがある患者さんに調査したところ、夜間に胸焼けを感じる人は全体の79%もいました。このうち、胸焼けが睡眠に悪影響を与えている人は75%、睡眠の問題が翌日の活動の障害となっている人が40%もいました。
胃食道逆流症の症状と睡眠への影響……歯ぎしりも役に立っている?
歯ぎしりにも、良いところがあります
胃食道逆流症の症状は胸焼けや胃のムカツキのほかに、ゲップとともに酸っぱい液体が口まで上がってくる呑酸(どんさん)や喉の痛み、飲み込みにくさ、狭心症のような胸の痛み、長く続く咳や喘鳴などがあります。
なかなか治らない中耳炎や副鼻腔炎(蓄膿症)の原因が、胃食道逆流症だったということもあります。また、中には全く症状がなくて、内視鏡検査をして初めて見つかる人もいます。
胃食道逆流症は、睡眠の前半や浅いノンレム睡眠中によく起こり、9割の人が目覚めるか脳波上の覚醒反応を示します。眠っている間に胃酸が逆流する回数が多かったり、時間が長かったりすると、睡眠時間が短くなったり、睡眠が細切れになって質が悪くなります。
アメリカの胃食道逆流症の患者さんでの調査では、69%の人が眠るために横になるだけで胃液逆流症状を自覚していました。眠っている間に起こる胃液の逆流のため54%の人が目覚め、胃液の逆流によって咳が生じたり息苦しさを感じたりする人は29%にのぼっていました。
逆流した胃液は、食道の蠕動(ぜんどう)運動によって胃へ戻されます。また、飲み込まれた唾液によって胃酸が中和され、食道の粘膜が保護されます。しかし、睡眠中には食道の蠕動運動や唾液の分泌が大幅に低下するため、症状が強くなりがちです。
睡眠中の歯ぎしりに悩む人も多くいますが、胃食道逆流症と歯ぎしりに関係があることが、最近の研究で分かってきました。胃酸が逆流したときに防御反応として歯ぎしりが起こり、同時に唾液を飲みこんで胃液を中和している人がいます。このような人は胃食道逆流症の治療を行うと、歯ぎしりも軽くなります。
胃食道逆流症の治療法は、生活習慣の改善と服薬
食生活を見直して、標準体重まで落としましょう
胃食道逆流症の治療の2本柱は、生活習慣の改善と飲み薬です。
お腹に脂肪が多いと腹圧が高まりやすく、胃食道逆流症を起こしやすくなります。1日30分程度のウォーキングを週に5回、行うようにしましょう。食べ物にも注意が必要です。脂肪が多い食べ物やカフェインを多く含む飲み物、アルコール類、にんにく、玉ねぎ、柑橘類(かんきつるい)は胃酸の分泌量を増やし、症状が出やすくなるので、避けるようにしましょう。タバコもやめたほうが良いです。
食事が終わってから3時間は横にならず、ベルトを少し緩めてお腹を楽にすることも大切です。眠るときには、少し頭を高くすると胃液の逆流が起こりにくくなります。
生活習慣を見直しても胃食道逆流症が起こるようなら、薬を飲む必要があります。薬局で買える市販薬では、「ガスター」や「アシノン」などのH2ブロッカー胃腸薬がおすすめです。普通の胃薬よりも、胃酸に対抗する効果が強力です。
それでもだめなら内科や胃腸科を受診して、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方してもらいましょう。胃食道逆流症の患者さんをプロトンポンプ阻害薬で治療すると、4割の人で夜の胸焼けがなくなります。また、治療前には8割の患者さんに見られた睡眠障害が、半分程度に減ることが分かっています。
【関連記事】