私たちの生活には電気が欠かせないものです。東日本大震災以降、原子力発電所の存在が大きな社会問題となっていますが、だからといって電気のない生活に戻ることはできません。
発電所の種類が何であれ、電気を最寄りの変電所まで送るのが「送電線」(架空電線)であり、それを支えるのが「送電鉄塔」です。
最後の変電所(配電用変電所)から家庭など電気の使用場所までを結ぶ架線は「配電線」といわれますが、一般的には単に「電線」と呼ぶことが多いでしょう。この配電線を支えているのがいわゆる「電柱」です。
この配電線は6,600ボルトの電圧があり、電柱の上に取り付けられた変圧器によって100ボルトや200ボルトに落としたうえで家庭などに送られます。
この最後の100ボルト(または200ボルト)の配電線(引込線)が「低圧線」と呼ばれるものであり、用語の定義上では送電線と街中に張り巡らされている配電線のどちらも「高圧線」となるようです。
ちなみに法令上の定義では、直流750ボルト以下および交流600ボルト以下が「低圧」で、7,000ボルトを超えるものは「特別高圧」となっています。
しかし、一般的な認識としては鉄塔と対になった送電線のことを、高圧線としてイメージすることが多いのではないでしょうか。
大切な社会インフラ施設の一つである鉄塔と送電線ですが、これが住宅地などを通っているときに、不動産の取引においては「嫌悪施設」として扱われることも多くなります。「鉄塔萌え」や「送電線萌え」を自認する人がいるかもしれませんが、ごく少数派でしょう。
景観上の問題だけではなく、電磁波や高周波などの影響や非常時の危険性を懸念する人も多いようです。電磁波などについては専門外なのでここでは言及しませんが……。
購入を検討する物件の見学に行ったとき、近くに鉄塔や送電線があれば「誰でも気付くはず」と考えがちですが、実際には「売買契約をしてから再び現地を訪れて初めて気が付いた」「入居するまで気付かず、びっくりした」という例も少なくありません。
物件見学時の心理状態で周辺のことまで注意が行き届かなかったり、角度によっては屋根に隠れて見えなかったりすることもあるのでしょう。
売買契約前の重要事項説明において、敷地の上空に送電線があるとき、あるいは送電線によって何らかの建築制限を受けるときには必ず説明対象になります。
送電線や鉄塔に隣接する敷地のときもたいていは説明されるでしょうが、敷地から少し離れた送電線や、窓からの視界を横切る送電線について説明されるとはかぎりません。
鉄塔や送電線だけにかぎった話でありませんが、購入しようとする敷地の周囲を自分の目でよく確かめてみることが重要です。
ところで、送電線の下の土地には建物がなく、道路として使われていたり、空地や平置きの駐車場になっていたりするケースも多くみられます。
送電線の下が道路の場合には、「もともと道路があって、その上空に架線した」ということも多いでしょうが、空地や駐車場の場合には何らかの建築制限が存在すると考えるべきです。
その一方で、送電線の真下に建つ一戸建て住宅などもみられ、それが建売住宅や中古住宅として販売されていることもあります。
これは送電線の電圧による違いであり、17万ボルト以上の場合は架線下の敷地だけでなく、最も外側の架線の真下から水平距離3mの範囲内には住宅など建物を建てることができません(簡易な付帯工作物は可能な場合があります)。
また、上空においても電圧に応じて架線から一定距離(27万5千ボルトで6.60m以上など)を開けることが法令で定められており、その範囲内は建築が制限されています。
送電線が17万ボルト未満の場合には、その下の敷地に建築をすることができるものの、まったく自由というわけにはいきません。
最も下の架線が真夏に伸びたとき(最下垂時)の想定位置から下へ一定距離、さらに、それぞれの架線が風の影響で最も揺れた位置から外側へ一定距離を取って円弧を描いた空間内は建築が禁止されています。
この建築が制限される距離を「離隔距離」といいますが、6万6千ボルトの場合には3.60m以上、2万2千ボルトの場合には3.00m以上となっていて、電力会社によってはそれ以上の推奨安全距離を定めていることもあります。
また、上空の送電線が17万ボルト未満の場合でも、電力会社と地権者の契約にもとづいて建築そのものが制限されている場合もあります。
建築ができない土地に対しては(17万ボルト以上の場合を含め)、地役権の登記がされていることが多いものの、必ず登記されているというわけではありません。
建築が可能な送電線下の土地はそれなりに安いため、送電線が気にならない人であればこのような土地や住宅の購入を検討することもあるでしょう。
しかし、上記の離隔距離による制限のため、建築基準法上では3階建てができるのに実際は2階まで、あるいは平家しか建てられないといったケースもあります。
送電線の電圧と、その敷地部分における送電線の高さによって条件は異なりますので、購入を検討するときには事前に電力会社の担当部署に連絡をして、敷地を特定したうえで適用される制限の内容をしっかりと確認することが重要です。
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