不眠・睡眠障害/不眠・睡眠障害の種類

殺人事件も起こす!? レム睡眠行動障害とは

眠っているときに見る夢が本当になるといいなあ、と思う人も多いことでしょう。でも、それが悲劇を生むこともあります。夢の中と同じ行動を実際にしてしまう「レム睡眠行動障害」という病気になると、自分を傷つけたりベッドパートナーにケガをさせてしまうことがあります。ここでは、このレム睡眠行動障害について詳しく解説します。

坪田 聡

執筆者:坪田 聡

医師 / 睡眠ガイド

隣で眠る妻を殺したのはナゼ?

レム睡眠行動障害1

眠っている間に、大変なことをしてしまう睡眠障害があります

2008年にイギリスで、就寝中の妻を夫が殺してしまうという事件が起きました。当然、この夫は警察に逮捕されて裁判にかけられましたが、のちに起訴が取り下げられ釈放されました。なぜ、殺人を犯した人が自由の身になれたのでしょうか?

実はこの男性、レム睡眠行動障害(Rem sleep behavior disorder: RBD)という病気にかかっていて、睡眠中に起こした事件では罪に問えない、と検察が判断したからです。レム睡眠行動障害とは、レム睡眠中に夢を見ながら、夢での行動と同じように実際にも行動してしまう睡眠障害の一つです。

この男性は、若者たちと乱闘する夢を見ていました。若者の一人にプロレス技のヘッドロックをかけたところ、現実世界では横で寝ている妻に技をかけていて、妻を殺してしまったのです。

レム睡眠行動障害の原因

国際的な睡眠障害の研究グループの調査によると、一般人口の0.8%、高齢者では0.5%が、レム睡眠行動障害と診断されています。日本の人口を1億2千万人とすると、わが国には約10万人の患者さんがいると考えられます。

レム睡眠行動障害は、明らかな原因が見当たらない「特発性」と、薬や他の病気によって起こる「二次性」の2つに分類されます。特発性と二次性の比率は6:4で、どちらも男性に多いことが分かっています。

人の睡眠には2種類あり、体の眠りであるレム睡眠と脳の眠りであるノンレム睡眠に分けられます。レム睡眠中は夢を見ることが多いのですが、夢のとおりに体が動いたのでは危険です。そのため、レム睡眠のときには、脳から筋肉へ届く指令が遮断されています。ところが、レム睡眠行動障害の患者さんでは指令を遮断できなくなり、夢の中で動く通りに体が動いてしまうのです。

レム睡眠行動障害を起こす可能性がある薬物として、うつ病の治療薬である三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬、パーキンソン病の治療薬であるモノアミン酸化酵素阻害薬などがあります。また、パーキンソン病やびまん性レビー小体病、多系統萎縮症、ナルコレプシーなどの病気も、二次性のレム睡眠行動障害を起こすことがあります。

レム睡眠行動障害の症状

レム睡眠行動障害-2

症状が激しいと、自分や家族を傷つける危険があります

同じレム睡眠行動障害でも、その症状は軽いものから深刻なものまで様々です。寝言が増えたり手足を振り動かしたりする程度のものから、起き上がって歩き出すもの、寝室から外へ出てしまうもの、隣で寝ている人に危害を加えるものまであります。症状が出ているときは障害物を避けることができないので、歩き出すとたんすにぶつかったりつまづいて転んだりすることもあります。

症状の激しさは、見ている夢の内容やその時の感情の強さに関係しています。子どもに多い睡眠時遊行症(いわゆる夢遊病)とは違い、異常な行動をしているときに声をかけたり体をゆすったりすると、比較的簡単に目を覚まします。その時にどのような夢を見ていたかを尋ねると、誰かとケンカをしていたり、猛獣や怪獣に襲われたりなど、暴力的な夢を見ていたと答えることがよくあります。また、レム睡眠行動障害にかかると、夢が生々しくなる場合もあります。

レム睡眠は寝ついてから60分以上たつと現れ、約1時間半の周期で繰り返されます。そのため、レム睡眠中の異常行動も、入眠後60~90分ほど経つと起こり始め、一晩に何回も症状が出ることがあります。また、朝方になるほどレム睡眠の時間が長くなるので、朝になるほど異常な行動が多くなります。

レム睡眠行動障害の治療法

一般の方にはあまりなじみのない病気ですから、まず、患者さんとご家族に病気についてよく理解していただくことが大切です。症状が軽ければそのまま様子を見ることもありますが、本人がケガをしたり周りの人に被害が及んだりするようなら治療が必要です。まずは、歩き回っても転ばないように床の障害物を片づけたり、ベッドを止めて床に布団を敷いて寝たりしましょう。寝室から外に出てしまう場合には、鍵をかけた方がよいです。一緒に寝ていた人も危険ですから、他の部屋で眠るようにしてください。

治療薬としては、クロナゼパム(商品名:リボトリールなど)が処方されます。クロナゼパムは、9割の患者さんで効果があります。副作用としてふらついたり転んだりすることがあるので、特に高齢者では注意が必要です。

クロナゼパムの副作用が出やすい人や睡眠時無呼吸症候群を合併している人には、メラトニンが使われることもあります。メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。もともと、メラトニンの濃度が低い高齢者には、特によく効きます。

ストレスが強いと悪夢を見やすく、それがレム睡眠行動障害につながることがあります。その場合には、心理的および社会的なストレスを減らすために、認知行動療法などの精神療法がおこなわれます。


【関連サイト】
歯ぎしり・寝言・金縛り・悪夢
ダイエット失敗の原因は睡眠関連食行動障害かも!?
居眠りなんかじゃない! ナルコレプシーの秘密とは?
どこに行けばいいの? 睡眠障害専門医の探し方
睡眠障害で医師にかかるまでに準備しておきたいこと
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます