シナイ山と聖カトリーナの伝説
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山側から見た聖カトリーナ修道院地域。聖書を写した写本については、世界第二位の蔵書数を誇る ©牧哲雄
カトリーナは3世紀末、エジプトのアレクサンドリアで生まれた女性。キリスト教徒ではなかったが、夢の中でイエスと婚約の契りを結び、キリスト教に改宗する。
当時エジプトはローマ帝国の支配下にあったが、ローマはキリスト教を弾圧していた。カトリーナは弾圧の停止を皇帝マクセンティウスに説くために奔走するが、結局斬首の刑で殺されてしまう。
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父たる神、子たるイエス、聖霊の三位一体をたたえるシナイ山頂の三位一体聖堂 ©牧哲雄
ローマ皇帝マクセンティウスは312年、コンスタンティヌス帝によって征伐され、遺体は市中引き回しの辱めを受ける。翌313年、コンスタンティヌス帝はミラノ勅令を出してキリスト教を公認し、380年にはテオドシウス帝によってキリスト教はローマ帝国の国教となり、ヨーロッパ中に広がることになる。
6世紀、東ローマ皇帝ユスティニアヌスによってシナイ山の「燃える柴」の地に修道院が、シナイ山頂には三位一体聖堂が建築される。8世紀に付近でカトリーナの遺体が発見されると、修道院は聖カトリーナの名を冠するようになる。
聖山シナイを登る
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ラクダを借りて山を登ることもできる。「ラクダは楽だ」なんて声をかけてくる客引きも ©牧哲雄
山を登るのは午前2時前後。聖カトリーナ修道院の近くにあるゲートが出発点になる。人工建造物は修道院とゲート以外にほとんどない。明かりは登山者の持つライトのみ。砂漠で空気が清浄なので、星があふれんばかりに輝いている。
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山頂で夜明けを待つ。光が闇を破り、色彩が爆発する朝の神秘 ©牧哲雄
歩いていると時々ラクダとすれ違う。ゲートにはたくさんのラクダがいて、背中に乗って山を登ることもできるのだ。
登山といっても2時間半ほどのもの。シナイ山の標高は2,285mだが、ゲートが高くにあるので、それほど厳しい登山ではない。
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日の出を眺める人々。国籍・人種・宗教・性別を超えて、同じ瞬間を共有する ©牧哲雄
東の空が白みはじめ、闇が青になり、緑から黄・赤へとその色を変える。太陽が出ると岩山たちが光を跳ね返して輝き出し、西の地平線にまで長い長い影を落としている。
圧倒的な自然の中で、人は神を感じる。シナイ山に神の逸話が多い理由が、ハッキリ理解できる。