架空書類の作成に残高証明書の偽造 巧妙化する“だまし”の手口 

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管理組合が預金を横領・着服されないためには、どうすればいいのか?

ここで改めて、前述した太平洋興発の元従業員による不正行為がどのような手口だったのか確認しておきましょう。同社の内部調査によると、以下のような手口で詐取されていました。


<太平洋興発の元従業員による詐取の手口>

元従業員は管理組合の管理者を言葉巧みにだまし、本来ある管理組合名義の銀行口座以外に新たな管理組合名義の口座を開設させ、この新口座に預金を移動させました。その後、元従業員は管理者から“押印済み”の「新しい管理組合名義の銀行口座の払出し伝票」をだまして手に入れ、自分名義の口座にその預金を移して詐取・着服しました―― 。

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わざわざ新しい組合名義の口座を開設させ、ダイレクトに本人名義の口座に預金を移動させていない巧妙さに、マネーロンダリング(資金洗浄)を意識した犯行の計画性が感じられます。たとえ元の口座の残高が減っていても、「新しい口座に預金を移動した」という理由付けが可能になることで、管理組合を安心させる説得材料にしようと考えたのでしょう。

その一方で、管理組合にも問題がないとは言い切れません。簡単に新しい口座を開設させ、また、何の疑いもなく払出し伝票を渡してしまう点に危機管理の甘さを感じます。新規口座を開設しようとした場合、やはり理事会の承認を得るべきです。重層的なチェック体制が十分に機能していなかったことが主因と指摘されても仕方ありません。

ただ、沖縄県で2008年3月、管理会社の社員が担当する県内の19の管理組合で合計約8000万円を横領していた事件では、架空の支出を管理組合に決裁させて預金を引き出し、さらに発覚を逃れるため管理組合に提出する残高証明書を偽造し、偽の書類に印鑑を押させるなど巧妙な手口で管理組合をあざむいていました。

ここまで徹底して“裏工作”されてしまうと、会計知識が十分でない管理組合は正直、お手上げといわざるを得ません。「だます方が悪いのか、それともだまされる方が悪いのか」――。マンション管理に対する日頃の「意識」や「関心」の差が、そのまま危機管理の差となって表れてしまう怖さを感じてしまいます。

「分散」「複層」「定期」による自己防衛で、管理組合預金の横領・着服は防げる 

そこで、最後にどうやって自己防衛すればいいのか、そのノウハウをご紹介します。元従業員が不祥事を起こした太平洋興発では、以下のような再発防止策(要約)を発表しています。

  • 法令順守意識を徹底させるため、コンプライアンスの重要性を再認識させるための社員研修を実施する。
  • 会計業務とフロント業務を行う組織を分離し、会計業務部門に各種支払い行為のチェック機能を持たせる。
  • 管理組合名義の預金通帳の管理方法を明確にし、厳格な管理体制を構築する。
  • 管理組合の「月次決算」と「年次決算」の検証を厳格に実施する。
  • 業務マニュアルを見直したうえで、職務権限規程との整合性を図りながら、これらのルールに従った業務を執行する。
  • 社員に長期間、同じ職務を担当させないよう、人事ローテーションを進めることで不正行為の発生リスクを低減する。

上記を参考に管理組合レベルでの防衛策を考えてみると、次の5つに整理することができます。

  1. 印鑑と通帳(キャッシュカードを含む)は数名の役員で分散管理する。決して1人にすべてを集中させない。
  2. 管理会社が自由に預金を引き出せないよう、修繕積立金の収納口座は管理組合(理事長)名義にし、印鑑も管理組合で自己管理する。
  3. 業務マニュアルやチェックリストを作成するなどし、会計担当理事や監事による「重層的」な出納のチェック体制を整える。
  4. 管理会社に業務を委託している場合は、定期に出納業務に関する報告を受ける。
  5. 特定の組合員に長期にわたって会計管理を担当させない。


付言として、マンション管理に対する「知識」と「関心」が最大の防衛策であることは説明するまでもありません。「無知」「無関心」を根絶することこそが最大の近道であることを、マンション居住者の皆さんは是非とも忘れないでください。




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