テクノポップ/アーティストインタヴュー

「初音ミク sings ニューウェイヴ」制作秘話(3ページ目)

ニューウェイヴ・オムニバス『KINGソングス of ニューウェイヴ』と合わせて発表された『初音ミク sings ニューウェイヴ』の発売を記念して、「ニューウェイヴほぼ30周年」の企画をされたサエキけんぞうさん、そして初音ミクのボーカロイドPの方々にニューウェイヴへの思いを語って頂きました。

四方 宏明

執筆者:四方 宏明

テクノポップガイド

うどんゲルゲさん

ガイド:
では、ここらでPの方々にも質問いたします。先ずは、サエキさんからも紹介があったうどんゲルゲさんです。うどんゲルゲさんはそうではないですが、ボーカロイド職人の名義は、○○Pと呼ばれる方々が多いのが特徴ですね。

うどんゲルゲ:
○○Pの呼び名については、バンダイナムコのゲーム「アイドルマスター」に起源があると言われています。「アイドルマスター」プレイ時にプレイヤー名を入力した場合、プロデューサーの略として名前の後に「P」が付いて表示されます。ニコニコ動画において、アイドルマスターのプレイ動画、または作品内に登場しない曲に、歌い踊るゲーム内のアイドルの映像を編集、コラージュした「アイマスMAD」動画を投稿するにあたってのハンドルネームとしてプレイヤー名をそのまま流用する習慣があり、さらにはプレイヤー名とは違うハンドルネームを使っていた投稿者においても、その作風や作品内に登場するものなどからあだ名のようにP名が考え出され、ニコニコ動画視聴者からタグの形で授けられる、といった習慣については、その起源を目撃した訳ではないので定かではないですが、初音ミク以前からあったものと推測されます。

また、ボーカロイド作品の投稿者にPが付けられるようになった元祖は「ワンカップP」であるといわれています。ワンカップPはそれまでにアイマスMADも投稿しており、その時点ではP名などは付けられていなかったのですが、2007年9月5日投稿の動画「初音ミクが来ないのでまだスネています」(ニコニコ動画)において、「もう今夜はヤケ酒だ ワンカップをいっき飲み」という歌をボーカロイドMEIKOに歌わせており、それを見て受けた視聴者達により彼は「ワンカップP」と命名されたのです。初期のボーカロイドのニコニコ動画内における受容のされ方は、音楽の作り手や受け手というより、ある種ゲームのプレイ動画を楽しむ目線で注目されていた部分があると思います。

ガイド:
ご自分のお名前の由来を教えてください。

うどんゲルゲ:
うどんゲルゲという名前は、ある時友人と大喜利のようにして決めました。イメージとしては、悪の組織に所属していて、世を忍ぶ仮の姿で一般社会に紛れて出番を待っている間に組織が壊滅してしまい、出番のこなかった怪人というかんじで。

ガイド:
サエキさんにも伺いましたが、今回のアルバムの選曲はどのように進めて行ったのですか?

うどんゲルゲ:
これは、カヴァーする曲を各々選曲しながら、とはいいながら、どの辺からどの辺までを範囲とするか等もなかなかツーカーとは行かないもので、サエキさんに曲目を出して貰ってそこから早い者勝ちで担当を決めていったり、していました。

ガイド:
うどんゲルゲさんの得意分野とかはあるのでしょうか?

うどんゲルゲ:
得意分野というなら、「シンセを使ってるロック」が一番近い言い方だと思います。
クラブで流れないタイプのテクノ、でもいいです。ボカロPというのは漫画で言えば同人作家にあたるものだと思いますので、その例えでいうと、コミケには参加し続けつつ、べつにプロになりたい訳ではない、けれど商業誌の仕事も断わりはしない。という立ち位置です。しいて言えばオリジナル曲がもうちょっとウケると嬉しいと思います。

ガイド:
今回の楽曲と、ニューウェイヴについての思いを述べてください。

うどんゲルゲ:
●ジューシィ・フルーツ「ジェニーはご機嫌ななめ」
この曲は普通にポップスとして知った曲です。テクノっぽい、ということもそんなに意識してなかったと思います。むしろ「抱き合って眠るの」という歌詞のほうが問題でした。小6だったもので。歌番組に出てきたジューシィ・フルーツは、なにかテレビ慣れしてない感じで、司会者が明らかに「変な人」扱いしていたような印象を今でも憶えています。

●プラスチックス「COPY」
リアルタイムで聴いた時には、音楽に聴こえなかったのを憶えています。子供だったので、メロディが順を追って進んでいかないと歌に聴こえないんですね。今聴くよりもずっと前衛的なものに思えて、新鮮というよりピンと来なかったです。解ったのは、立花ハジメのソロアルバムを聴くようになった後からでした。

●戸川純「玉姫様」
戸川純を最初に聴いたのは、テレビCMに使われていたゲルニカの「銀輪は唄う」だと思いますが、衝撃が走りまして。すぐさまお小遣いを持って「改造への躍動」を買ってきて、聴いてビックリ全部シンセ!しかも何か低音が効いてないというか、正直最初はショボい音!と思ったのですが、次第にそのあやしい魅力、特に戸川純の歌声、様々なキャラクターが代わる代わりに出てくるような声に魅了されたのでした。そんな頃に発売されたのがアルバム「玉姫様」。溝が薄くて聴けなくなるまで聴きました。自分に手の届く限りの情報を集めて、はじめて一人でコンサートを見に行ったりもしました。一人で外に居てヒマなときは、アルバムを頭の中で再生して40分潰すことができました。完全にアイドルでした。

●ハルメンズ「リズム運動」
「玉姫様」は毎日聴いていましたが、そうこうするうち、レコード屋さんにはもう一枚、気になるアルバムが登場していました。帯に大きく「戸川純」と書いてある、「ハルメンズ・デラックス」というアルバムです。そのときはハルメンズがバンド名なことも知りませんでした。「玉姫様」でもおなじみの曲がいくつも入っています。曲数も多くてお得な感じでした。ある日意を決して買ってみて、聴いてビックリ歌ってるのが男!もちろんお目当ての戸川純の歌声もいくつか入っているものの、最初は騙されたと思いましたが、何度も聴いているうちに、レトロフューチャー、あるいはパラレルワールドな音の世界にとっぷりとハマって行きました。「リズム運動」はその後で聴いたアルバムの中の一曲ということになるわけですが、

ニューウェイヴ、という音楽について知ったのは、YMO散開のあと、¥ENレーベルの音楽を聴きだしてからのことになります。中学から高校にかけての時期で、友達やテレビ等に教えて貰うものだった音楽が、自分で探し出すものになってきた時期でもありました。ちょうどレンタルレコードの店があちこちに出来た時期でもあり、レンタルや中古で友達の誰も知らないレコードを入手しては聴く、ということにパッとしない自分のプライドを仮託していたのは間違いないです。当時の自分にとってニューウェイヴは、パンクロックほど暴力的でなく、歌謡曲ほど退屈でもない、ピッタリくる異世界に連れて行ってくれる音楽でした。頭の中に音楽の地図を描くにあたっての起点であり、今でもホームグラウンドな感覚です。
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