社会保険/社会保険の基礎知識

出産から復職までの社会保険実務の勘所

少子化の社会経済情勢の中、企業の労務管理上欠かせない知識が子育て支援の仕組みです。企業が適用を受けている社会保険。現在では子育て支援のため多くの給付制度、免除制度が用意されています。知識の確認をし、実践できるものをフル活用していきましょう。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド

子育て支援の仕組みをフル活用しよう

子育て支援の仕組みが各種用意されています

子育て支援の仕組みが各種用意されています

少子高齢化の社会経済情勢の中、企業の人事労務管理実務では社会保険の知識を適切に実践していくことが求められます。ワーク・ライフバランス(仕事と生活の調和)が叫ばれていますが、積極的に取り組むことで労働環境の整備をしていきたいものです。

企業が適用を受けている各種社会保険制度。子育て支援のための給付金制度や保険料の免除制度など、様々な費用面の補助の仕組みが用意されています。ところがその一方、多くの中小企業ではこれまで出産後育児休業を取って職場に復帰する従業員が少なかったので、その仕組みを十分活用できていないのが現状でしょう。

今回の記事を読むことで子育て支援の実践を積極的に実行していきましょう。費用面の支援の内容を見てみると、従業員だけではなく実は企業自体も受けることができるものもあるのです。

社会保険の給付と保険料の免除などの手続き

社会保険では、出産についての給付金や育児休業期間中の保険料の免除などがあります。従業員から出産について連絡を受けたら、出産予定日を確認してください。その予定日を基に手続きを進めていくことになります。

出産育児一時金(分娩に関する給付金)

出産したら分娩に関する費用が補てんされます。まずはこの手続きの確認です。

■支給額 42万円
出産は病気やケガではありませんから、自己負担3割で健康保険を使って治療を受けるわけではありません。出産費用の補てんを「出産育児一時金」として支給を受けることができるのです。給付額は一子に対して42万円です(但し、産科医療補償制度に加入していない病院で出産した場合は39万円)。なお、健康保険組合に加入している企業では支給額が異なることがあります。

■必要書類など
「出産育児一時金支給申請書」
被保険者本人の捺印・医療機関などの証明を受け、出産費用の領収・明細書の写しを添付して申請します。その他産科医療補償制度加入の場合はその証明等が必要です。

■提出先
事業所を管轄する「きょうかい健保」または「健康保険組合」です。

■支給される「出産」とは
妊娠4ヵ月以上の出産のことです。社会保険では妊娠1ヵ月は28日と見ますので、具体的には4ヶ月目に入る妊娠85日以上の出産が対象となります(死産、流産、早産は問いません)。

原則として出産費用は本人が負担した後で支給されますが、直接医療機関に支払われる制度もあります。

出産手当金(産前産後休暇中の収入補てん)

従業員が出産のために仕事を休み給与の支給がない場合、収入を補てんするため健康保険から出産手当金が支給されます。給与の肩代わりをしてくれる制度です。

■支給額 
標準報酬日額×3分の2×日数(下記支給期間)
標準報酬日額とは、社会保険上の従業員個人別の1日当たりの給与のことです。

■支給期間
出産日以前42日間(双子以上の場合は出産日以前98日間)、出産日後56日間の産前産後休暇期間に対して支給されます。出産予定日以前42日間ではありません。出産予定日より早く生まれた場合でも、実際の「出産日」以前42日間となります。予定日より遅く生まれた場合は、予定日以前42日プラス実際の出産日までの+αの期間も支給されます。

■必要書類など
「出産手当金支給申請書」
被保険者本人記載欄に捺印。事業主は労務に服さなかった日を記載します。その他医療機関の証明欄もあります。その他添付書類として「賃金台帳」・「出勤簿」の写しが必要になります。

■提出先
事業所を管轄する「きょうかい健保」または「健康保険組合」です。

育児休暇中は社会保険料が免除

育児休暇期間の保険料は従業員負担分だけでなく、企業負担分も免除されます

育児休暇期間の保険料は従業員負担分だけでなく、企業負担分も免除されます

育児休暇期間中は社会保険料が免除されるのをご存じでしょうか(但し、産前産後休暇の期間中には社会保険料を免除する制度はありませんのでお間違いなく)。社会保険料の負担は非常に重たいですね。下記にて免除手続き方法を確認しておきましょう。

■従業員・企業の両者とも保険料が免除されます
社会保険料の負担は、従業員・企業両者にとって大変重いですね。この社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金保険)の本人負担分・企業負担分の両者とも免除を受けることができるのです。なんとこの免除期間中は保険料を支払ったことになりますので、将来受け取る年金額に影響(年金額が減る)を及ぼすこともありません。

■保険料免除の期間はいつまで?
免除される期間は、育児休暇開始月から育児休暇が終わる日の翌日の前月までです。具体的には3歳までの子を養育するための育児休暇、育児休暇に準ずる措置を利用している期間です。育児休暇期間が申出書に記載どおりの場合は、復職について報告をする必要はありません。育児休暇予定期間より早くに復職した場合は、「育児休業等取得者終了届」を提出することになります。

■必要書類など
「育児休業等取得者申出書」
事業主の証明欄があります。

提出先
事業所を管轄する「年金事務所」です。

職場復帰後、保険料負担が軽減されるケース

■育児休暇終了後の給与額減少に応じて保険料負担軽減
通常社会保険料などを計算する報酬額の変更届は、固定給が昇降し2等級以上の変動があった場合に行います。ところが育児休暇が終了し職場復帰した場合にはこの通常の取り扱いではなく、固定給の変動がなく1等級だけの変動であっても報酬額の変更届を提出することができるようになっています。

復職後の養育期間中は勤務時間の短縮などで給与が下がることが予想されますね。その場合、即実際の給与額に合った保険料(保険料負担の軽減)となるようにしているのです。

必要書類など
「育児休業等終了時報酬月額変更届」
本人印、事業主印を捺印し作成します。

■提出先
事業所を管轄する「年金事務所」です。

養育期間の報酬月額の特例措置

前述の特例手続きで実態に即した保険料となるよう負担の軽減が図られるということは、別の見方をすると将来の年金額が減ることを意味します。社会保険料の仕組み上、保険料負担に応じて将来の年金額が反映されるわけですからやむをえません。

ところが実はこの点でも将来の年金額が不利にならないような特例措置があるのです。一定の条件で子が3歳になるまでの養育期間中、給与額(標準報酬月額)が減少した期間は、従前の高い給与額(標準報酬月額)をその期間の給与額(標準報酬月額)とみなして年金額が計算される特例措置です。減少した給与額に応じた保険料負担しかしないのに、減少前の高い給与額で年金額を計算してくれると言うわけです。いまや少子化対策の施策がここまで進んでいるのです。

必要書類など
「養育期間標準報酬月額特例申出書」です。
本人印、事業主印を捺印し作成します。

■提出先
事業所を管轄する「年金事務所」です。

■具体例
従前の給与額(標準報酬月額)30万円が26万円になった場合

保険料の計算 実際の標準報酬月額26万円で計算
年金額の計算 従前の標準報酬月額30万円で計算
将来もらえる年金額が減らないように計算してくれるわけです。この手続きがあること自体を知らない事業主が多いようです。忘れずに手続きをしておきましょう。

次のページでは、育児休暇期間中の収入補てんについて解説しています。
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