社会保険は、企業のセーフティネットの中心です

社会保険は、企業のセーフティネットの中心です

従業員を雇用すると様々な事故(病気・ケガ、出産、老齢、障害、失業など)に対応していくため、社会保険に関する知識と実践方法を正しく把握しておく必要があります。従業員だけでなく、企業の役員など経営者にも適用されるものもありその適用範囲、適用方法、給付内容などの理解は欠かすことができません。しっかり押さえておきましょう。今回は、そもそも社会保険の目的や仕組みについて解説いたします。
 

社会保険制度の目的と4つの柱

人々が豊かで安心して暮らすことを目的に、国の社会保障制度は4つの柱にまとめられています。

  1. 社会保険(病気・ケガ、出産、老齢、障害、失業などの事態を支援)
  2. 公的扶助(生活困窮者に対し、公費[税金]による経済援助。生活保護法、災害救助法等)
  3. 社会福祉(税材的支援が必要な者に対し、生活指導、更正指導その他の支援。児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法等)
  4. 公衆衛生(広く国民に対しての健康の保持・向上に関する支援。結核予防法、精神保健及び精神障害者福祉法、母体保護法等)

社会保障制度の中心的な存在が社会保険です。法人であれば、必ず適用されることになっています。従業員が採用されてから退職するまでの間、事故なく就業することは通常考えられません。企業がこの社会保険の適用を受けていない状況は、例えて言えば冬山登山に全くの無装備で向かうようなもの。まさに企業にとってセーフティーネットの代表格といえます。
 

社会保険制度の区分

企業は様々な事故(リスク)に備えて原則強制加入の社会保険に加入し、事故(リスク)が起こった時に保険給付を受けることができます。これは次の5つに大きく区分されています。

  1. 医療保険(病気・ケガ、出産、死亡に対する給付)
  2. 介護保険(介護状態等になった際の給付)
  3. 年金保険(老齢、障害、遺族給付)
  4. 災害補償保険(業務災害、通勤災害の給付)
  5. 雇用保険(失業給付、失業を予防するための高齢・育児・介護時の給付)

医療保険には、民間企業の健康保険の他、公務員に適用される共済組合などもあります。年金保険には、民間企業の厚生年金保険の他、公務員に適用される共済組合などもあります。災害補償保険には、民間企業の労働者災害補償保険(労災保険)の他、公務員に適用される災害補償などもあります。
 

社会保険の仕組み

社会保険は、事前に納めている保険料を財源として事故に遭った際に、生活困難をあらかじめ防ごうとする制度(防貧制度)です。

1.強制加入が原則
社会保険は、法令にもとづき国が原則として制度の運営に当たっています。企業(法人)は強制加入が原則です。企業の利益が少ないからといって、また従業員が低所得だから加入しないということはできません。

保険料は、定額ではなく従業員の所得に応じて負担することになっています。この保険料をもとに、病気やケガの治療や従業員への所得補償、将来の老齢年金の給付額などが算定されます。従業員の所得に応じた負担なので、高所得者から低所得者に対して所得の再分配機能があることも特色の1つといえるでしょう。社会保険は、自己の資産などに関係なく給付が行われます。

2.費用は一部公費負担がされている
社会保険は、企業が負担する保険料だけで運営されていると理解されている方もいるかもしれません。実は保険給付には、公費(国・都道府県・市区町村)負担が行われているものがあるのです。例えば、年金給付(基礎年金給付費)の2分の1は、国が負担しています。これは、国民が納めている保険料を軽減するためです。
 

社会保険と私的(民間)保険の違い

公費負担等により保険料が軽減され、納めた保険料以上に給付が受けられます

公費負担等により保険料が軽減され、納めた保険料以上に給付が受けられます

一般的に次のような違いがあります。私的(民間)保険にはないメリットが多くあります。

1.税金による保険料負担軽減
社会保険には、保険料以外の税金による公費負担があります。公費負担が入ることで企業や従業員の保険料負担が軽減されていることは大きなメリットです。一方私的(民間)保険では、集められた保険料の総額が保険金額の総額に等しくならなければならないという原則のもと、公費負担による軽減措置がありません。

2.所得の再分配機能
社会保険は、事業主(第三者)が保険料の一部を負担するなどしているため、従業員が納めた保険料以上に給付を受けられる場合があります。これも大きなメリットです。私的(民間)保険では想定されていない所得の再分配機能があるわけです。一方私的(民間)保険では、保険料は保険の対象となる事故の発生率と支払われる保険金額に見合ったものでなければならないという原則のもと、所得の再分配機能がありません。

3.一律の保険料方式と所得等の負担能力に応じた保険料方式
社会保険は危険に応じた保険料の設定ではなく、一律の保険料方式と所得等の負担能力に応じて保険料が設定される方式になっています。応分負担という点はメリットです。一方、私的(民間)保険では、保険の対象となる事故の危険率に応じて定められますので、応分負担ではありません。
 

企業が加入しないデメリット

社会保険に加入すると企業の事務量と保険料負担は増えますが、私的(民間)保険と違ったメリットが多くあります。加入しないことは、逆の見方をするとメリットを受けることを自ら拒否していることにもなります。デメリットは主に4点に集約されます。

1.企業経営上、リスク管理が不十分
例えば、私的(民間)保険だけでは、リスク管理はとてもできません。また、私的であるがために、それを経営している民間保険会社の倒産などのリスクがあることを忘れてはならないでしょう。そうした場合保険契約者を保護する法律もありますが、公的な制度(国の責任で運営する制度)にはかないません。加入しているからこそ、安心して企業の運営もできるというわけです。まずは社会保険。私的(民間)保険は、公的保険の補強部分です。

2.万が一の場合、会社が全て補償する
例えば従業員が、業務災害・通勤災害で負傷してしまった場合、そもそも法律上(労働基準法上)会社が使用者責任で治療費や休業時の賃金補償の義務があります。労災保険はその補償をする制度ですから、加入手続きをしていないということはその補償義務を全て会社が負わなければならないのです。また、保険料の他に費用を追加徴収されることもあり、場合によって莫大な損害を被ることにもなってしまうのです。

3.採用面、社会的信用度などの不利益
求人をする場合は、ハローワークなどでの求人活動や民間会社を使った求人広告などが考えられます。社会保険に加入していないと、法令違反をしている企業であることを公表しているようなものです。応募者側からみると魅力のない会社に映ることでしょう。優秀な人材確保の機会を自ら放棄しているといえるのではないでしょうか。

また、公的助成金を受ける場合や金融機関からの融資を受けたりする際の審査で、社会保険の加入状況をチェックされることもあります。社会保険に加入していることが前提になっている制度が多いですから、公的助成金や融資をうける機会が失われてしまいます。

取引先企業との関係にも影響してくるでしょう。そもそも法令順守をしていない企業ですから、信用力は乏しくなってしまいます。

4.加入勧奨を断ると罰則の適用がある
行政から未加入事業所に対し、加入勧奨の調査が入る場合があります。この場合、意図的に加入を断ると、罰則の適用を受けることがあります。過去に遡って保険料を徴収されたり、懲役・罰金などが課せられることがあります。









 



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