登山で眠れないのは高山病による睡眠障害の可能性も
清々しい山の空気。しかし標高の高いところでは、睡眠の質が悪くなる傾向があります
ヒマラヤ・エベレスト街道沿いにある海抜4,243メートルのペリチェという町での調査では、登山者の53%に高山病の症状が見つかりました。そのうち70%の人に睡眠障害がありましたが、この割合は96%の頭痛に次いで2番目の多さでした。体質や体調によっては、2,500メートルほどの日本の山でも急性高山病になることがあるので、十分な注意が必要です。
普段は低い土地で暮らしている人が標高の高いところで眠ると、睡眠の質が悪くなります。終夜睡眠ポリグラフをとると、レム睡眠や深いノンレム睡眠が減り、寝床の中で目覚めている時間が長くなります。この変化も、眠っている間に血液中の酸素濃度が減ることが原因です。しかし幸いなことに、海抜3,000~6,000メートルの高度でなら、1カ月ほどで高度に体が慣れてくると、一時的に悪化した睡眠の質が元に戻る傾向があります。
高山病にならなくても、山で眠れなくなる原因は他にもあります。久しぶりの山行や仲間とのおしゃべりで興奮してしまうことでも、寝つきが悪くなります。枕が変わっただけで眠れなくなるのは、平地のときと同じです。さらに、見ず知らずの他人と同じ部屋で眠らなければいけないという、通常の生活ではあまりない状況では、眠れなくなっても当然でしょう。
また、山のハイシーズンには山小屋は超満員になり、1畳に2~3人が眠らなければいけないこともあります。このようなスシ詰め状態では、寝返りすら打てません。寝返りには、床から体にかかる圧力を分散したり、寝床の中の温度や湿度を調整したりする作用の他に、睡眠の深さを変えるスイッチの働きもあります。ですから、うまく寝返りができないと、熟睡できなくなってしまうのです。
山小屋泊の初心者におすすめの持ち物
温泉やお風呂に入ると、体が温まって寝つきが良くなります
寒くて眠れないなら、カイロやお湯を入れたボトルで温まりましょう。冷たい手足よりも、首や脇の下、足の付け根など太い血管があるところを温めると、体全体がポカポカしてきます。入浴施設があるところでは、寝床につく1時間ほど前に入浴すると寝つきがよくなります。軽いストレッチングなどの体操でも、体を温められます。
明るさが気になるならアイマスク、音が気になるなら耳栓を使いましょう。アイマスクの代わりには黒っぽい衣服やタオルなどが、耳栓の代わりには丸めた紙も使えます。隣の人と肌を接して眠れない人は、布団の中でシュラフカバーに入るという手もあります。
枕が変わると眠れないという人は、自分の枕を持っていくのが一番です。でも、それでは荷物が多くなってしまいますから、家で使っている枕カバーだけでも山に持っていきましょう。いつもの肌触りや匂いのおかげで、眠りやすくなります。
また、山でお酒を飲んで眠ろうとするのは、ちょっと考え物です。アルコールは確かに、寝つきをよくしてくれます。しかし、時間とともにアルコールが分解されると、眠りが浅くなり睡眠の質が落ちてしまいます。また、尿を作らせない「抗利尿ホルモン」の働きをブロックするので、夜中にトイレに行きたくなり目覚めてしまいます。さらに、気圧が低い山では酔いが早く回るので、悪酔いする危険性もあります。
山小屋でのいびき対策! 他人に迷惑をかけないマナーとは
イビキがひどい場合は病気の可能性もあるので、医師の診察を受けましょう
いびきは、鼻や口から入る空気の通り道である気道が狭くなることで起こります。仰向けで眠ると、重力の働きで舌がノドに落ち込み、気道が狭くなっていびきをかきやすくなります。いびきが軽い人は、横向きやうつ伏せで眠るといびきが減ります。
眠っているときに口呼吸をしていると、舌がノドに落ち込みやすくなります。目覚めたときに、口の中が渇いていたりノドが痛くなったりするときは、口呼吸をしていた可能性があります。そんなときは、市販の鼻の穴を広げるテープや、口を開かないようにするテープを使うと良いことがあります。
また、お酒を飲むと鼻やノドがはれて、気道が狭くなります。山ではアルコールの作用が、平地よりも強く出ます。普段、お酒を飲んだ後にいびきをかいてしまう人はもちろん、そうでない人も山での飲酒はホドホドにしないと眠れなくなるので注意が必要です。
その他、夏のレジャー時に役立つ睡眠情報として、「枕が変わると眠れない!旅先でグッスリ眠るには」「軽自動車でも可?睡眠のプロが教える快適車中泊のコツ」などもあわせてご覧ください。