ドイツでは各家庭に必ず1冊あるという定番絵本
『もじゃもじゃペーター』には表題作ほか、「とてもかなしいマッチのはなし」「おやゆびしゃぶりのはなし」「スープぎらいのカスパルのはなし」(以上生野幸吉訳より)など全部で10の短いお話が掲載されています。お話には、大人の言うことを聞かない悪い子が登場し、彼らは、そのわがままやイタズラゆえに指を切り取られたり、餓死したりと、とにかく悲惨な結末をむかえます。「まあ、残酷!そんな怖いお話を子どもに読ませたらトラウマになっちゃう……」と二の足を踏む方もいらっしゃるでしょうが、そう決め付ける前に、1度だけでも先入観を取り払って読んでみませんか? なにしろ原作は、「ドイツの子どものいる家には必ず『もじゃもじゃペーター』がある」とまでいわれるほどの定番絵本。怖さの陰に隠れた作品の魅力に驚かれるかもしれませんよ。
精神科医の父親が3歳の息子の為に描いた絵本
『もじゃもじゃペーター』
ホフマンが3歳の息子の為に作った原作は、初出から160年以上が経つ
もともと、『もじゃもじゃペーター』は、ドイツの精神科医ハインリッヒ・ホフマンが、3歳の息子のクリスマスプレゼント用に描いた作品で、1845年に刊行されました。厳格で教訓的な内容からしつけ絵本としての期待も寄せられ、20世紀になってからは、その強烈な内容に対して様々な批判もあったようです。
けれども、小さな読者たちは、残酷な一面を持つストーリーへの批判など何するものぞ、「怖い! 怖い!」と言いながら何度も読みたがったと言われ、世界中で翻訳される人気絵本となりました。
さて、この原作、ドイツでは現実感のないユーモアが持ち味のナンセンス絵本だと評価されています。原題も『もじゃもじゃペーター、またはおかしなお話と愉快な挿絵』となっています。けれども、どうも日本人、特に日本人の大人にとっては、これをユーモアと解して大笑いするのには違和感があるようです。ホフマンの絵が、予想以上に現実感を伴って読者に迫ってくるからかもしれません。そのためか、世界的評価を受けた作品にもかかわらず、日本での知名度はいまひとつ低かったのです。
そんな中、1980年に、ホフマンの絵とは一味違う「もうひとつのペーター」とも言うべき作品が、日本で発売されました。生野幸吉さん訳、飯野和好さん絵による『もじゃもじゃペーター』です。
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