人は説得されるのではなく自分で決定したい

人は自分で決めたい生き物

人は自分で決めたい生き物

何かを決める時、皆さんはどのようにして決断をしているでしょうか。情報を集めたり、人の意見を聞いたりしても、最終的には自分の判断で決めることが多いはずです。そもそも人間は自分で意志を決めたい生き物。人から押しつけられると、それが自分にとっていい内容であってもイヤな気持ちになってしまうこともあります。

説得上手な人というのは、相手を説得していると思われないように働きかけるよう工夫しています。無理に相手を説得するのではなく納得してもらうような情報を提供し、お互いが満足する結果を手にしているのです。「人の意見を受け容れた」という印象になってしまう説得ではなく、自分で決めたような印象になる話し方・伝え方について考えてみましょう。

材料を提供し、答えは自分で出してもらう

主張よりも材料提示

主張するのではなく、材料を提示して選んでもらう

A・B・Cという3つの選択肢があったとします。相手にAを選んでもらいたい場合、皆さんだったらどのようなアプローチをするでしょうか。

「Aはこんなに素晴らしいよ」とか「Aを選ぶとこんなメリットがあるよ」といった形で話し始める人が多いですが、この場合、Aを選ぶことに心理的障壁ができてしまう場合があります。皆さんも、親に勧められたことに反発したり、お店で店員さんに勧められたものを買いたくなくなったりした経験があるのではないでしょうか。

Aを選んでもらうことに成功しても、相手には「選ばされた」という気持ちが残ってしまいます。そこでお勧めなのは、Aを選ぶような材料のみを提示する方法です。
「Aにしたほうがいいよ」という主張はせず、BのデメリットやCを選んだ場合のリスクなどをできるだけ客観的に伝え、最終的な判断は自分でしてもらいます。公式は与えても、答えを出すのは本人。自分で決めたように感じてもらうことができる基本的なテクニックです。
 

上司を説得するには客観的な根拠をわかりやすく

相手に判断を促す、材料提示にもコツがあります。お勧めなのは、客観的な根拠を利害に絡めて提示する方法です。育児休暇制度について提案するケースで見てみましょう。

A:「出産、育児をしながら普通に働くのは大変なことです。当社でも育児休暇制度が必要なのではないでしょうか」

このような話し方・伝え方では、個人の感想・希望という印象になってしまいます。たとえ会社にとってメリットのある案だとしても、これでは賛同を得られにくいのです。聞く人が納得してしまうような材料提示をする例を見てみましょう。

B:「女性社員の出産・育児による離職、それに伴う新規採用・教育コストは当社の利益を圧迫しています。昨年度の状況を分析したところ、出産・育児が原因の離職率は○○%、それに伴う採用・教育によるコストは、なんと○○円にも上っています。これによって、営業利益が○%から○%に圧縮されています。当社でも、離職率を押さえる対策が必要なのかも知れません。厚生労働省の発表した働く女性の実情によれば、育児休暇制度を導入した場合の効果は……。また、社内でのアンケートによると……。当社で離職率を減らした場合の試算ですが、昨年かかった○○円のコストを××円まで削減できるという結果になりました」

Bのように客観的なデータを利害に絡めて提示すると、納得しやすくなります。Aに比べて、解決策の1つである育児休暇制度が魅力的に見えてきたのではないでしょうか。

主張を支える根拠は、複数(2つ以上)用意してください。反対する場合、人は主張そのものではなく、根拠を潰しにかかります。1つの根拠が崩れた場合でも、主張を支える根拠が他にもあれば安心です。
 

仕事ではデータを集めて信頼度を上げる

図書館

図書館は情報の宝庫、専門誌なども見られる

人に納得してもらうよう働きかける時、データがあると便利です。インターネットを使えば様々なデータを探すことができますが、その場合データの信憑性に気を配る必要があります。データの出どころには注意してください。できれば、経済産業省、厚生労働省など、公的機関の発表している数字を探すようにするといいでしょう。

新聞、雑誌、専門誌なども情報の宝庫です。これらはインターネット上の情報と比べると、新聞社や出版社などのフィルターを通っているぶん信頼度が高いと言えます。図書館なども上手に利用してみてください。規模の大きい図書館司書に相談すると、情報に辿りつく手助けをしてくれます。図書館では、国内外メディアの記事なども検索できるので非常に便利です(自治体によっては司書のいない図書館もあります)。

データを提示する場合には、その出どころ・いつ調べたかも併せて伝えるようにします。数字は小数点第1位まで使うようにするといいでしょう。より信頼度を上げることができます。
 

ビジュアルのパワーを上手く使う

データ

データは見せ方次第で印象が変わってしまう

説得に限らず、情報を伝える時にはビジュアルエイドが有効です。言葉だけで伝えた時よりも、実際に見てもらった時のほうが「わかりやすさ」も「インパクトの強さ」も上がります。

図の2つのグラフは、2つとも同じ数字の推移を表したものです。目盛りの単位を変えたのですが、随分印象が変わりました。

同じ数字でも見せ方によって印象は変わります。グラフでも、割合を見る場合は円、比較なら棒、推移なら折れ線といったようなセオリーはありますが、一度自分であれこれと試してみるのがいいでしょう。あえて様々なビジュアルエイドを作ってみることで勘が養われますし、意外な発見があるかも知れません。作成方法による違いを体感すると、自分がデータやグラフに騙されることもなくなってきます。
 

上司の説得には気遣いをプラス

論理と感情

論理だけでなく感情にも配慮

上司を説得する場合には、さらに気遣いをプラスする必要があります。参考までに、日本一の二番手と言われた歴史上の人物・藤堂高虎の話をご紹介しましょう。

藤堂高虎が徳川秀忠に仕えていた時に、城の改築案を出すように命ぜられました。高虎は城の建築に関して多くの知識を持っており、その分野で厚い信頼を寄せられていました。しかし、完璧と思えた改築案の他に、もう1つ候補の案を作成し、秀忠にどちらがよいか選んでもらったそうです。

わざわざ2案作ったことを不思議に思った周りの人達が、その理由を高虎に尋ねると、「1つだけ出したのでは自分の案に秀忠様を賛成させることになる。2つ出したのなら、秀忠様がご自身で選んだことになる」と答えたそうです。人間は複数の案を見せられると、それ以外のことを考えなくなる傾向があります。高虎はそんな人間の癖や上司に対する気遣いなど、人の機微がわかっていたのかも知れませんね。

話し方・伝え方によって心象は変わります。説得しなければならないシーンでは、特に相手の感じ方に気を配って伝え方を工夫してみてください。

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