セクシュアルマイノリティ・同性愛/イベント

6月1日から「HIV検査を受けよう」ウィークがスタート(4ページ目)

6月1日~7日の1週間は「HIV検査普及週間」。国を挙げてHIV検査を普及させようというキャンペーンが実施されます。今回はこのキャンペーンのこと、NLGRのこと、そしてHIV検査を受けたくない人の「キモチ」について、書いてみたいと思います。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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なぜ検査を受けたがらない人が多いのか

先頃、薬害エイズ訴訟が全面終結(最後の原告の和解が成立)というニュースがありました。あの事件が起こってから実に30年近い年月が…と思うと、感慨深いものがあります。(1996年、菅直人厚生大臣が行政の過ちを認めて謝罪した時のことを思い出します)

80年代初期、海外で原因不明の怖い病気が見つかったと騒がれはじめました。そして、1985年、非加熱製剤によって多くの血友病患者の方たちがHIV感染したことを知りながら、厚生省はその事実を隠蔽するために、米国在住の日本人同性愛者を第1号のエイズ患者として発表しました。そのことが「エイズは同性愛者の病気であり、エイズの蔓延は同性愛者のせいだ」という世間の偏見を増長させたのです。(詳しくはこちら

また、翌1986年には松本事件(フィリピン女性の感染が発覚し、松本に住んでいる外国人女性が公共施設の利用を断られたり、市民も差別的な目にあいました)、1987年には神戸事件(日本人の女性で初めての患者が発表され、数日後に亡くなるや、実名顔写真入りで報道され、関係を持った男性を探し出そうと公開捜査のようなことが行われました)といったエイズ・パニックが起こりました。マスコミがセンセーショナルに煽ることで、人々の心にHIV/エイズへの拭いがたい恐怖が植え付けられたのです。(詳しくはこちら

こうして、不幸にも、恐ろしくダーティなイメージをベットリとつけられたHIV/エイズは、「撲滅」の対象として、世間の人たちの無知と偏見にさらされ続けてきました。
人間、恐怖心に駆られると、つい現実から目を背けたくなるものです。「エイズは同性愛者とか外国人の病気。自分には関係ない」「まさかとは思うが、もし自分が感染したら…死ぬしかない」と思っている人が、果たして、検査を受けに行こうなんて思えるでしょうか?
90年代後半以降、抗HIV薬を複数組み合わせる方法で劇的に治療が改善した(「死に至る病」ではなくなった)にも関わらず、なかなかHIV/エイズをめぐる状況が好転してこなかった、その根本には、人々の心にひそむエイズへの恐怖があったはずです。日本はそもそものHIV/エイズとの向き合い方に失敗した…そのことが未だに尾を引いているのだと思います。

Living Together

Living Togetherのサイト。二丁目で毎月「Living Together Lounge」を開催しているほか、さまざまなイベントなどを展開してきました。

一方、そんな恐怖心を克服し、陽性者への共感とともにHIV/エイズを身近でリアルなこととして受けとめられるように実践していくムーブメントが、二丁目ゲイコミュニティの中から誕生しました。それが「Living Together」です。
HIV感染の告知を受けた陽性者が、その苦しみやリアルな体験を手記に綴り、当事者に代わってほかの人が手記を朗読する…読み手はHIVを決して他人事ではないと受け止められるし、読まれた方もきっと癒されることでしょう…ある意味、地獄から光を生み出すような、奇蹟の業だと言ったらおおげさでしょうか。
80年代に「エイズは同性愛者の病」というトラウマを刻み付けられ、「同性愛は不道徳。感染は自業自得」というスティグマ(社会に着せられた汚名)に苦しんできたゲイたちが、どうしたら「僕は何も悪くないんだ」「怖がらなくていいんだ」と思えるようになり、HIV/エイズと向き合えるようになるのか…ほとんど祈りのような気持ちで、血のにじむような思いで「Living Together」はこの世に生まれてきたのではないかと思います。

人々の恐怖心を癒し(治療し)、HIV/エイズと向き合い、検査を受けることにつなげるためには、「エイズ撲滅」「STOP!エイズ」といった空虚なお題目ではなく、「Living Together」のような、陽性者の方たちのリアリティと、それを伝える人たちの血の通った共感の言葉こそがチカラになると信じます。(そして、パニックとは対照的に、そういう「癒し」のチカラはじわじわと広がっていくものなので、ある程度のロングスパンで見ていく必要があると思います)
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