社会保険/社会保険の基礎知識

【社会保険の加入手続き】従業員採用時にすべきこと

従業員を採用し社会保険に加入させる際には、個々の従業員の労働条件を確認し、手配します。労災保険・雇用保険・健康保険それぞれに違った確認事項があります。的確な手続きを行わないと、将来受給できるはずの給付金が受け取れないなど、不利益な状況が生まれます。社会保険加入手続きで注意すべきポイントをお伝えします。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド

労働条件で決まる労働保険・社会保険の加入・非加入

社会保険、種類別の加入手続き

社会保険、種類別の加入手続き

従業員を採用する時には、労働条件を明示しなければなりません。これは労働基準法によって企業に義務づけがされています。明示がないと従業員は安心して勤務することができません。

労働条件は、個々の従業員ごとに異なります。まず採用された従業員の労働条件の確認をしてください。

役員なのか従業員なのか、また契約期間や労働時間はどうなっているかチェックしてください。それによって手続きを行う保険内容が変わります。

社会保険の加入・非加入は企業側で決定するのではなく、また個々の従業員の希望によって決まるわけでもないことを押さえましょう。今回は、法人企業を前提に解説します。

■目次
労災保険の加入手続き
雇用保険の加入手続き
健康保険・介護保険・厚生年金保険の加入手続き
加入できる扶養家族は健康保険と厚生年金保険で違う

労災保険の加入手続き

労災保険は雇用形態に関係なく、従業員を採用した時点で自動的に加入したことになります。正社員だけでなく、アルバイト・パート社員などの非常勤形態での勤務条件であっても、給与が支給される従業員は全て加入します。また従業員ごとに加入手続きをするわけではなく、企業単位で行います。個人ごとに保険証が作成されないのが他の制度との違いです。

■加入対象となる従業員
職業の種類に関係なく、採用されて給与が支給される全従業員。正規従業員だけでなく日雇、アルバイト、パートタイム従業員も労働時間数に関係なく、全員加入させなければなりません。年度途中に入社する従業員も加入対象です。

■手続き先・手続き書式 
所轄労働基準監督署。
書式は特にありません。

■手続き方法
入社する度に個別従業員ごとに手続きをするわけではありません。毎年、企業が行う労働保険の申告・納付の手続きによって完了します。

保険料
途中入社者も含め、年度内の全ての従業員の給与総額に対応した保険料を計算し、企業が負担します。各従業員からの保険料の徴収はありません。

■法人の役員、自営業者の特別加入制度
労災保険は従業員に対する保険ですが、特別な手続きをすることで中小企業の役員や自営業者、これらの家族従事者も加入できる制度があります。また海外派遣の従業員を特別に加入させる制度もあります。

「役員だから労災保険に加入できない」と認識されている方が多いようですが、この特別加入制度の活用をお勧めします。経営者の労災事故のリスク対策になります。

<関連情報>
労働保険の成立手続きはおすみですか(厚生労働省)

雇用保険の加入手続き

雇用保険は労災保険と違い、労働条件によって加入・非加入が決まります。今回は、季節的雇用者や日々雇用される者など以外の一般的な従業員の加入・非加入を解説します。

■加入対象となる従業員
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上の条件で採用される
  • 31日以上引き続き雇用されることが見込まれること
この2つの条件で採用される場合は、加入することになります。

この条件だと、多くの従業員が該当することになります。注意すべきはパートやアルバイトなどの形態で、契約期間や労働時間が短い従業員の場合です。加入・非加入は将来の失業給付に直接影響を及ぼしますから、不利益となることがないように手続きをしてください。

次の条件の場合は、加入させなければなりません。
  • 雇用期間が定められていない場合
  • 雇用期間が、31日の場合
  • 31日未満の雇用期間でも、契約更新規定がある場合
  •  
■手続き先・手続き書式
所轄ハローワーク(公共職業安定所)。
雇用保険被保険者資格取得届。

■手続き方法
雇用保険被保険者資格取得届を、従業員の採用月の翌月10日までにハローワークへ届けます。前職で雇用保険に加入したことがある人を採用する場合は、採用者が持っている雇用保険被保険者証の被保険者番号を継続して使用します。雇用保険被保険者証を紛失した場合は、前の会社の名前と勤務期間を確認して手続きします。

■法人の役職員等の加入
株式会社の代表取締役は加入できません。
ただし、役員(取締役、監査役など)は、部長・支店長、工場長などの従業員の身分を同時に持つことがあります。この場合、雇用関係があると認められると加入できる方法があります。この場合は前記の「雇用保険被保険者資格取得届」に、「兼務役員雇用実態証明書」等を併せて提出します。この提出書類により、ハローワークで雇用関係があるかどうかの判断がなされます。

■保険料の徴収
雇用保険の保険料の従業員負担分は、従業員の賃金総額に所定率を掛けて計算し、給与を支払うごとに徴収します。これを1年分徴収しておいて、毎年1回の労働保険の申告・納付の時期に、企業側負担分を併せて納めることで完了です。

<関連情報>
労働保険の成立手続きはおすみですか(厚生労働省)

健康保険・介護保険・厚生年金保険の加入手続き

厚生年金保険では、被扶養配偶者の年金加入手続きもあります

厚生年金保険では、被扶養配偶者の年金加入手続きもあります

健康保険・厚生年金の加入手続きは、原則として一緒に行います。

書式がセットになっていますから一連の手続きで両方の手続きが完了します。ただし、健康保険組合に加入している企業の場合は、別々に行う場合もあります。

年齢条件で加入の可否が決まりますが、扶養家族がいる場合には、健康保険・厚生年金保険とも書式が増えます。扶養家族になれるかどうかは要件が決まっているため、チェックが大切です。扶養の考え方は健康保険と厚生年金保険で異なりますので、この点も要注意です。

なお、介護保険料は、40歳~64歳までの従業員に対し、健康保険と一緒に保険料を徴収します。従業員ごとに介護保険の加入を行うわけではありません。65歳以上になると、企業に勤めていても、一定額以上の年金受給者は、年金から介護保険料が天引きされます。

■加入対象となる従業員
常時雇用される従業員は、全員、健康保険・厚生年金に加入します(一部、臨時に雇用される人や季節的業務に雇用される人は加入しないことがあります)。健康保険は74歳までの加入で、75歳以上になると後期高齢者医療制度に加入します。厚生年金保険は69歳まで加入で、70歳以上になると制度加入者でなくなります。

アルバイト、パートタイム従業員の加入には、注意してください。加入するための条件が決まっています。

加入の条件は次の関連記事で確認してください。
社会保険に加入義務がある従業員の範囲は?条件とは?

■手続き先・手続き書式
所轄年金事務所・健康保険組合
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届(従業員本人の加入)
健康保険被扶養者(異動)届(従業員の家族の健康保険加入)
国民年金第三号被保険者届(従業員の被扶養配偶者の国民年金加入)

■手続き方法
従業員が採用されてから5日以内に、上記手続き書式を年金事務所・健康保険組合に提出します。

■法人の役員の加入
法人企業の役員(代表取締役、取締役、監査役等)も常態として法人から報酬を受けていれば加入することになります。なお個人事業主は、加入することができません。

■保険料の徴収
保険料は、月単位で徴収します。月の途中で加入しても1ケ月分を徴収します。日割り計算をするわけではありません。加入月(採用月)の保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)は、翌月の給与から徴収(給与天引き)が始まります。加入月の保険料は翌別末日が法定納付期限ですから、翌月徴収が原則となっているのです。

ただし、企業によっては、加入月から保険料を徴収している経理処理をしている場合もありますので、自社の処理方法を確認しておきましょう。

加入できる扶養家族は健康保険と厚生年金保険で違う

■健康保険の扶養家族の範囲

1.従業員と同居していなくてもよい扶養家族
配偶者(内縁でもOK)、子、孫、兄弟姉妹、父母、祖父母などの直系尊属。これらの家族は、同居しているケースが多いと思いますが、同居していなくても扶養家族となれます。

2.従業員と同居が条件の扶養家族
上記以外の3親等の親族、従業員の内縁の配偶者の父母および子、内縁の配偶者が死亡した後の父母および子。

扶養にできる範囲は意外と広いことが分かります。扶養家族ですから保険料の負担はありません。扶養家族となれるのは、原則74歳まで。75歳になると後期高齢者医療制度という別の制度に加入します。

■健康保険の扶養家族になれる収入
さらに、扶養家族になるためには、収入の限度があります。

1.従業員と同居の場合
扶養家族の年収が130万未満でかつ従業員の年収の半分未満であること(ただし、60歳以上と一定程度の障害者は、年収180万円未満になります)。

2.従業員と別居している場合
扶養家族の年収が130万円未満でかつ従業員からの仕送り額より少ないとき(ただし60歳以上と一定程度の障害者は、年収180万円未満になります)。

※被扶養者については次で詳細確認をしてください。
被扶養者とは?(全国健康保険協会)

■国民年金第3号被保険者の範囲
従業員に扶養されている配偶者(20歳以上60歳未満)は、厚生年金保険における扶養家族になります。これを、国民年金第3号被保険者と言います。保険料の負担はありません。健康保険における扶養家族は幅広い範囲ですが、厚生年金保険の扶養家族は、一定年齢の配偶者のみとなっていることが大きな違いです。

事務処理は、健康保険の扶養家族の手続きと一緒に行うことになっています(書式が一体となっています)。ただし、健康保険組合に加入している企業の場合は、別々に行う場合もあります。

■国民年金第3号被保険者になれる収入
前述の健康保険の扶養家族となれる収入と同じ条件です。

<関連情報>
日本年金機構
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