「トランス脂肪酸」の情報開示の指針
牛肉にも、微量のトランス脂肪酸が含まれています。
これまでも「トランス脂肪酸」については、そのリスクや海外での取り組みなどがメディアで取りあげられてきました。日本ではこれまで、日本人の摂取量が海外と比べて少なく、栄養バランスのとれた食事をしていれば健康被害を心配する事もないと考えられていました。しかし最近の調査等では、一部のグループでは多く摂取している可能性があることがわかってきました。
また、トランス脂肪酸の表示に関してはルールがなかったため、食品業界が情報開示したくてもしにくかったという事情もあります。今後情報開示をするにも混乱を避けるため、消費者庁では「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」をまとめました。
トランス脂肪酸の定義や、その含有量を表示する際には熱量並びにたんぱく質などの一般的な栄養表示に加え、飽和脂肪酸やコレステロールの含有量も合わせて表示すること、名称、単位、強調表示、分析方法などのルールを指針をまとめ、情報開示を行うように食品業界に要請することとしました。またこの指針は、栄養表示基準に規定するのではなく、考え方を明らかにしたもので、今後も新たな科学的な知見に基づき、随時見直していく予定とされています。
トランス脂肪酸とは
「トランス脂肪酸」とは栄養成分である不飽和脂肪酸の一種。栄養成分とは言え、多量に摂取することによる健康被害が指摘されていて、国によっては使用が規制されている成分です。少し専門的になりますが、栄養成分である「脂肪酸」は、鎖の長さや炭素の二重結合の数、位置などによって分類され、多くの種類があります。大きく分けて、炭素の二重結合がない飽和脂肪酸と、炭素の二重結合がある不飽和脂肪酸の2種類があります。(脂肪酸については過去の記事もご参考になさってください。)
不飽和脂肪酸には、炭素の二重結合のまわりの構造の違いにより、シス型とトランス型の2種類があります。シス型は、炭素の二重結合をはさんで水素原子が同じ側についてます。トランス型は炭素の二重結合をはさんで水素原子が反対側についてます。
シス型とトランス型では、脂肪酸の空間構造に違いができます。トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸ですが、飽和脂肪酸と同じ空間構造をもちます。そのため、飽和脂肪酸の作用のように、トランス型脂肪酸もLDLコレステロールを増加させてHDLコレステロールを減少させる、また動脈硬化などによる虚血性心疾患のリスクを高めるという報告があります。
トランス脂肪酸を含む食品
トランス脂肪酸には、天然の食品中に含まれているものと、油脂を加工・精製する工程でできるものがあります。■ 天然の食品中に含まれているトランス脂肪酸
天然の不飽和脂肪酸はシス型ですが、牛や羊などの反すう動物は、胃の中の微生物よってトランス脂肪酸が作られます。そのため牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中には微量のトランス脂肪酸が含まれています。
■ 油脂の加工・精製でできるもの
常温では液体の植物油や魚油に水素を添加することで、半固体または固体の油脂を製造することができます。その際に、トランス脂肪酸が生成する場合があります。
そのような加工技術で製造されたマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、クッキー、パイなどの洋菓子、揚げ物などにもトランス脂肪酸が含まれています。
また、精製工程で臭いを除去するために高温処理した植物油にも、微量のトランス脂肪酸が含まれています。