仕事中、誰かに強い猜疑心を抱いてしまったら……? 時には、そんな事があったとしても、もしも、それが頻繁なら、そう思わざるを得ない状況なのでしょうか? 場合によっては、妄想性パーソナリティ障害の可能性もあります
こうした猜疑心は、身の周りの危険を察知するべく人間の生存本能に組み込まれたモノなのでしょう。悪い話にだまされないためにも、疑うことが必要なときもあります。しかし猜疑心が自分の間違った直感から生じ始めると、なかなか厄介です。
例えば疲れている旦那さんのために、奥さんが夕食で腕をふるったとします。この食事を見たとき、旦那さんがニコリともせず厳しい表情を浮かべ、「ひょっとしたら妻は浮気をしていて、これはその罪滅ぼしなのではないだろうか?」と、浮気をするはずもない奥さんを深く疑ってしまうような状態では、平穏な結婚生活を送るのは難しいかもしれません。このような状態が酷くなってしまった場合、「妄想性パーソナリティ障害」を発症している可能性もあります。
今回は妄想性パーソナリティ障害の特徴、症状、治療法について、詳しく解説します。
妄想性パーソナリティ障害の特徴・原因
妄想性パーソナリティ障害の大きな特徴は、対人関係において、相手への不信感、猜疑心が、容易かつ頻繁に生じること。こうした傾向は、多くの場合20代までに顕著になり、仕事、家庭面で何らかのトラブルが生じやすくなります。妄想性パーソナリティ障害の頻度は、人口の0.5~2.5%で、男性に多く見られます。妄想性パーソナリティ障害の原因自体は不明です。
妄想性パーソナリティ障害の症状
妄想性パーソナリティ障害では以下のような症状が見られます。- 誰々が自分に良からぬ事を企んでいると、思い込みやすい
- 周りの人間が、自分に何か良からぬ意図を抱いていないかどうか、心配になりやすい
- 他人に利用される事をおそれるあまり、自分の個人情報を他人に教えるのを非常に嫌がる
- 自分の周りの出来事を被害妄想的に解釈しやすい
- 他人が自分に向けた、ネガティブなコメントは、たとえ、それが言葉の綾のようなモノであっても、簡単に聞き流さず、深刻に受け止めてしまう
- 自分の体面が傷つけられたと感じた時には、たとえ、それが、他人の目から見れば、些細な事であっても、躊躇なく、怒りを相手にぶつけてしまうなど、過剰に反応しやすい
- パートナーが貞淑であったとしても、不貞をしているのではないかと、疑念が頻繁に生じやすい
妄想性パーソナリティ障害の治療法
妄想性パーソナリティ障害になると、他人への不信感が強くなるため、そもそも、専門家に治療してもらうという選択を自らすることはあまり期待できません。たとえ家族からの要請で精神科やカウンセリングルームを受診したとしても、治療の現場でも医師、カウンセラーなどへの不信感が生じやすく、これは治療効果を妨げる大きな要因になります。例えば、医師が少しでも約束の時間に遅れると「自分を軽く見ている!」と感じ、以後、その医師に対して強い不信感が持続してしまう可能性があります。妄想性パーソナリティ障害の基本の治療方法は心理療法。日常生活で心を苦しめている問題や、対人関係を深刻に阻害する、他人への強い不信感に対処していきます。
薬物療法が必要かどうは個々人の病状によりますが、憤りや不安感が認められるときには抗不安薬、また、被害妄想的傾向が強まっている時には抗精神病薬、さらに、気分が大きく落ち込んでいる時には抗うつ薬……など、状況に応じて、治療薬が選択されます。
妄想性パーソナリティー障害の経過は個人差が大きいですが、一般に、他人への強い不信感は、仕事、結婚生活でのトラブルの元です。場合によっては、統合失調症の前触れのこともあるので、早期に精神科(神経科)を受診することが望ましいです。
ただ、病的猜疑心に限らず、自分の考えに潜む不合理性は、他人には明らかであっても、自分では分かりにくいもの。トラブル続きの場合は、自分の思考の合理性を疑ってみると、思わぬ気付きが得られるかもしれません。その際、思考の合理性を取り戻すために精神科を受診することは、トラブルを回避する手段となるという点は、ぜひ留意しておきましょう。